米国ラスベガスで毎年開催される国際テックイベント「CES(シーイーエス)」では今年、実装が進む最先端技術が数多く発表された。
世界中から集まった多様な新製品が紹介されるCESは、1月6日から9日まで開催され、コロナ禍以降最大となる14万8千人以上が参加した。ラスベガス中心地の山手線がすっぽりおさまるエリアに、2つのコンベンションセンターを含む12の公式会場が設けられ、約1200のスタートアップを含む4100社以上が出展し、400以上のセッションに1300以上のスピーカーが登壇した。
さらに今年は、新たにディープテックをテーマにした「CES Foundry」が登場し、話題のNVIDIAによる展示やセミナーを中心にAIや自動運転、ロボティクス、量子コンピュータといった展示が行われていた。こうしたジャンルはこれまでのCESにあまり見られなかったもので、コンシューマ向けの展示会というイメージを払拭し、ビジネス向けの色を強めていることが伺える。

ハードテック分野が集まる「CES Foundry」が新登場
CESを運営するCTA(全米民生技術協会)が注目すべき技術を発表する「Tech Trends」でも、3つあるメガトレンドの1つに「Engineering Tomorrow(エンジニアリングの未来)」が挙げられ、将来のインフラとして、ブロックチェーン、量子コンピューティング、AIとロボティクスの活用が進み、それらに関連するシステム開発が重要になるだろうとしている。

注目すべき技術として量子コンピューティングなどが挙げられた
製造業やモビリティをはじめとする産業界ではデジタル化による技術革新が進み、実証実験から実用化フェーズに入っている。会場では、二足歩行ロボットや自動運転、ウェアラブルAIデバイスが数多く出展され、単なるビジネスを目的にするだけでなく、環境やエネルギー、人材不足の解消や健康長寿社会の実現といった様々な社会課題の解決に結びつけようとしている。

AIを搭載したスマートグラスやリングがたくさん出展されていた
今年のCESで最も話題になったのがヒューマノイドロボットだ。フィジカルAIの一つで、カメラから得た映像情報を解析して人間の動きを模倣し、学習するVLA(Vision-Language-Action)の活用が急速に進み、中国メーカーを中心に展示ホールを埋め尽くすほど様々なタイプのロボットが出展されていた。
卓球をしたり、ボクシングをしたり、ピアノを弾いたりするロボットもあるが、中でも人気を集めていたのが、洗濯ものを畳んだり、料理を手伝ったり、掃除を代わりにしてくれるといったお手伝いロボットだ。


会場はヒューマノイドロボットであふれていた
韓国のLG Electronicsが発表したホームロボット「LG CLOiD」の開発テーマは、ずばり「Zero Labor Home(家事をゼロにする)」だ。冷蔵庫の中身や消耗品のチェック、ゴミをまとめたり、洗濯ものを畳んでしまうといった、目に見える家事の裏に隠れた”インビジブルワーク(見えない家事)”の解消をターゲットにしていて、同社の家電やスマートホームと連動して、こまごまとした作業をこなしてくれる。ネットワークにつながっているので、外出先から用事を頼んだり、逆に家の様子を知らせることもでき、世界レベルで増加している単身者をサポートする役割も期待されている。

目に見えにくい課題を解決するホームロボットが登場
働く現場にもヒューマノイドロボットが導入される時がやってきた。30年以上ロボット開発を続けるBoston Dynamics は、最新の汎用型ヒューマノイドロボット「Atlas(アトラス)」を発表。人間のような歩き方をする一方で、頭だけを180度回転して後方に歩いたり、倒れても関節を器用に動かしてその場で立ち上がったり、ロボットならではの動きをする。
生産工場はロボット化が進みながらも人間が行う作業はまだ残っていて、そうした仕事を担う人手不足が大きな課題になっている。ヒューマノイド型のロボットはそこを補完するだけでなく、バッテリーは自分で交換するのでほぼ休みなしで働いてくれる。
Boston Dynamics の親会社である韓国のHyundai Motor Groupは、年内に自社工場でAtlasの導入を開始すると発表し、まずは単純作業から始めるとしている。2030年ごろにはより複雑な仕事ができるようになるという話もあり、普及が進めば人は工場でどのような役割を担うかという、本当の意味での働き方改革が求められることになりそうだ。

人のように働くロボットが人の働き方を変える可能性が出てきた
仕事現場ではロボットのように考えて動く作業車両も登場している。韓国のDOOSANが開発する「Bobcatシリーズ」は小型で機動性の高い自動運転作業車両で、アニメに登場するメカのようなかっこいいデザインをしている。音声入力で様々な操作ができ、作業員は運転席に座っているだけで作業が行える。
必要な機能はモジュールで追加でき、カメラやセンサーで位置情報を把握して夜間でも自動で作業が行えるので、人手が足りず、ベテランが雇えない現場の救世主になってくれる。同社によるとトラクターなどを運転できる作業員は2031年に40%が引退するため、今からロボット作業車の活用を検討する必要があるとされている。

はたらくクルマのロボット化が始まっている
高齢化で運転が難しくなる自動車もロボット化が加速している。米国ではドライバーがいないロボタクシーの実用化がすでに始まり、それにあわせた車両の開発が進んでいる。公共交通が少なくクルマが不可欠な地域で、小さな子どもから高齢者まで、早朝や夜中でも安心して移動できる自動運転のニーズが高まっているからだ。
先行しているWaymoの後を追うようにUberとLyftがそれぞれロボットカーを開発し、年内から来年にかけて実用化することを発表している。どちらも手動で運転できるが、Lyftと提携するTENSORのロボットカーは自動運転モードでは車内が変形してハンドルとフットペダルが格納され、まさしくロボといえる仕様になっている。

TENSORのロボットカーは自動と手動運転で車内が変形する
Amazon傘下のZooxはトースターのような形をした4人乗りのロボタクシーの試運転をラスベガスで開始している。前後がなく、4WSで真横にも走れるので狭い場所でもスイスイと移動できる。実際に乗ってみたが走りは快適で安定していて、乗り降りもしやすくバリアフリー度も高い。

Zooxはコンパクトで機動性のあるロボタクシーの試験運用を開始した
さらに狭い町中でもスイスイ走れる自動運転機能付きのEVバイクも登場している。全天候型で屋根が付いていて、道路が狭く駐車場スペースが少ない都心部で、効率良く移動できる。

自動運転機能で自動車の代替になりそうなEVバイクが登場している
コンパクトに都心部を移動するという目的では空の移動も実用化が進んでいる。安定性を重視した電動ジェットエンジンを採用したLEO Flightの空飛ぶバイク「Solo JetBike」をはじめ、複数の機体が実用化されており、すでに予約が始まっている。

空の移動も実用化が進んでいる
実用化が進むロボティクスや自動運転技術は、障がいを補助するアクセシビリティ分野に採用されはじめている。
シンガポールに本社を置くSTRUTTが開発するマイクロモビリティ「Strutt EV1」は走行性に優れ、最大で13度の坂や5cmの段差も安定走行できる。さらに自動運転と同様の機能を持つカメラやLiDAR、各種センサーをコンパクトなボディに搭載しており、障害物や危険を避けながら安全に移動できる。目的地の入力は「キッチンまで移動して」というように自然言語で簡単に入力でき、実際に試乗してみたが、室内で人がたくさんいる場所でもゆっくりだが問題なく目的地へ移動できた。

マイクロモビリティも自動運転の時代に入った
MSリサーチで製品開発責任者を務め、視覚障害者であるエイモス・ミラー氏が起業して開発した「Glide」は、自動運転機能を備えた白杖になるロボットだ。2つの車輪と調節可能な伸縮式ハンドルを持つ本体にカメラとセンサーを備え、軽く前方に押すだけで周囲の障害物や人を避けながら道案内をしてくれる。よく利用するルートを事前に登録でき、目的地を決めずに歩く場合は、周辺にある重要なポイントをアラートで知らせ、その方向に向けるだけで簡単に誘導してくれる。

「Glide」は掃除機のようにも見えるスマートなボディに最先端の技術が詰め込まれている
自動運転機能を”着るナビゲーション”にする製品も開発されている。フランスのスタートアップが開発する「SEEHaaptic」は、ウェアラブルカメラから取り入れた周囲の情報をAIでリアルタイムで解析し、ハプティクス(触感)技術に変換して体に伝えることで、視覚障害者が歩くのをサポートする。方向だけでなく、看板に書かれた文字、信号といった様々な情報や画像も認識でき、音声アシスタントにも対応している。

「SEEHaaptic」カメラの映像を触覚に置き換えて情報を伝えてくれる
今年のCESは戦争やインフレなどの影響もあったのか出展数は昨年より減っており、社会課題解決を目的とする出展の数も例年に比べると残念ながら減っているように見えた。一方でアイデア止まりにならず、販売を始めている製品は増えていた印象だ。特にアクセシビリティは一般向け製品にも応用できそうな機能を備えたものが目立つだけに、来年はもっといろいろな製品が出展されることに期待したい。


