TICAD9~日本とアフリカの人材交流のインパクト

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第9回アフリカ開発会議(TICAD9)開催

2025年8月20日~22日の3日間、神奈川県横浜市で第9回アフリカ開発会議※1(TICAD9)がパシフィコ横浜にて開催された。同会議にはアフリカ地域から首脳級33名を含む49か国の代表が参加し、日本からも石破総理大臣をはじめ岸田前総理大臣、岩屋外務大臣などが出席。また、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)が開催する「TICAD Business Expo & Conference」には194社・団体が出展するなど、アフリカとのビジネスを含めた民間交流の高まりを感じさせる期間となった。その他にもテーマ別イベントが同会議に合わせてさまざま開催されており、中でも2013年のTICAD5で発表され、翌2014年から始動した“アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABEイニシアティブ)”をテーマとして扱う「ABEイニシアティブ・TOMONI Africa関連イベント:ABEイニシアティブのこれまでとこれから~更なる架け橋人材の育成を目指して~」について、レポートする。

アフリカ開発会議(TICAD)は、1993年から日本政府が主導して行ってきた「アフリカの開発」をテーマとした国際会議で、TICAD5までは5年おきに日本で開催してきた。2016年のTICAD6では初のアフリカ開催(開催地:ナイロビ)を果たし、それ以降は3年おきに日本とアフリカで交互に開催してきており、今回のTICAD9は6年ぶりの日本開催となる。

KICもTICAD Business Expo & Conference内に神戸市ブースの一員として出展

アップデートされていく人材交流の役割

今回のTICAD9開催期間中、メイン会場となるパシフィコ横浜やその周辺施設でアフリカに関するさまざまなテーマのセミナーやシンポジウムが、産官学および市民社会の団体によって200以上開催された。そのうちの1つである、2025年8月20日(水)にJICA横浜で開催されたTICADテーマ別イベント「ABEイニシアティブ・TOMONI Africa関連イベント:ABEイニシアティブのこれまでとこれから~更なる架け橋人材の育成を目指して~」は、独立行政法人国際協力機構(JICA)とABEイニシアティブでの留学生の受入上位校である神戸情報大学院大学(KIC)と国際大学(IUJ)の共催によるイベントで、2014年に開始されたABEイニシアティブのこれまでと、今後の可能性について産官学のさまざまな視点からトークが行われた。

特に、クロストークでは、人材交流と留学先現地での経験の価値をABEイニシアティブの卒業生とアフリカ留学を経験した学生、そしてアフリカでビジネスを展開している起業家が登壇。。モデレーターは神戸情報大学院大学の内藤智之副学長が務めた。

会場には非常に多くの参加者が集まった

<クロストーク参加者>

・Ms. Matogo, Mary Magdalene Kemuma氏(ABE修了生・ケニア)

・Mr. Serge Dovi Avi Gnona氏(ABE修了生・KIC、コートジボワール)

・榑林輝奈乃氏(東京外国語大学国際社会学部アフリカ専攻)

・北濱満里子氏(日本電気国際協力事業統括本部主任)

・野呂浩良(ダイビック代表取締役)

Mary氏「私はTICADが初のアフリカ(ケニア)開催した2016年にABEイニシアティブに参加しました。実は、参加が決まった時は自分の人生が大きく変わるなど思ってもいませんでした。

そこから日本に来て、東京でのオリエンテーションで、アフリカのさまざまな国から来ている私と同じ留学生との交流する機会がありました。私にとって、多様なアフリカ出身者と交流するのは、初めての経験だったのでとても貴重な経験でした。

さらに日本の開発史や文化に関する学びも新鮮でした。この学びは、その後に日本人と交流をする際にとても手助けになりました。

オリエンテーションを終え、東京から新潟にあるIUJに学びの場を移した際にも、日本における地域の違いを感じることができました。

ABEイニシアティブで日本に滞在している期間に、色々な切り口での異文化交流を経験したことで、自分自身の異文化理解力やコミュニケーション能力、自信が高まったと思います。今、振り返ればABEイニシアティブは革新的な制度だと言い切れます。」

Ms. Matogo, Mary Magdalene Kemuma氏(右) ABEイニシアティブでIUJにて修士号を取得、現在は丸紅株式会社で勤務

Dovi氏「ABEイニシアティブは、私の人生を大きく変えました。私は、日本に来る前もアフリカの地で起業家として活動していましたが、その当時、ビジネスは利益追求が第一との考えでした。

ただ、KICで教授陣から“ソーシャルイノベーション”の考え方について教えてもらい、社会課題をビジネスの力で解決していくことの重要性を知り、これまでのビジネスの考え方を改めました。

そして、私の修士論文が西アフリカ諸国銀行でモバイルマネーの運用検討の際に活用してもらうなど、目に見える成果も出すことができました。

その他にも色んな経験を積み重ね、自分が日本とアフリカの架け橋役になれると感じ、自らの会社以外にもNPO法人JAPAN CONNECTを創設し、日本の企業10社をコートジボワールに招いたり、逆にアフリカの企業20社を日本に紹介したりしました。

これらのキャリア、経験はABEイニシアティブのおかげです。」

Mr. Serge Dovi Avi Gnona氏(中央) ABEイニシアティブでKICにて修士号を取得。現在は日本で株式会社Dove Innovationを起業して活動中。また日本とアフリカの架け橋となる活動を行うNPO法人も設立し、活動中。榑林輝奈乃氏(左) 東京外国語大学学部生、大学3年次に南アフリカ共和国のステレンボッシュ大学に留学

倉林氏「私が留学した南アフリカ共和国には、アパルトヘイトという人種差別の政策を行っていた歴史があります。日本人同士だとこうしたセンシティブな話題は議論のテーマにしづらい部分もあると思いますが、現地では600人規模の学生たちが人種や人権、格差といったテーマについて熱く議論をしており、教授が授業を止めるほど白熱していました。

留学当初は、困惑する部分もありましたが、多様性のある環境下で得られる視点も多く、貴重な経験となりました。

日本にいてもアフリカのことは学べると思いますが、アフリカの地で現地の人と直接、会話をしたり、現地の空気を肌で感じたりする体験は、日本の大学キャンパスで知識を得ることとはまったくの別物です。

現地に足を運び、日本人というマイノリティな存在としてコミュニティに飛び込むことは勇気が必要かと思いますが、それが自分の視野を広げ、自らを成長させてくれる体験だったと実感しています。」

共通する点として、日本人もアフリカ人も関係なく、異国の地での体験や多様性のある環境下での学びは、その後の人生の大きな原動力となっている。

さらに、そうして体験と学びをあたえてくれた留学先の国・地域に対してのエンゲージメントが、明らかに高まり、それぞれの中で強固なモノになっている。

日本とアフリカの架け橋役を育む

人材育成の成果はもちろん、人を介した関係性強化からの波及効果が目に見えてくるまでには、ある程度の時間を有する。ABEイニシアティブも2014年に始動して、約10年経過した今、アフリカと日本の“架け橋役”となってくれるアフリカ出身者たちの活躍が、それぞれの場所において目を見張るものになってきた。

そうした状況になり、ようやく次のフェーズへの移行や多くの国・地域そして関係者を巻き込んだ影響力を発揮できるのだろう。

倉林氏「これまで留学をする日本の若者で、アメリカやヨーロッパに留学に行く人たちは多いですが、アフリカへ行く人は少ないのが現実です。そもそもアフリカへの留学機会や方法が少なかったからかもしれないですが、十分な勇気と知識があればアフリカ諸国への留学は可能です。

そうした状況で日本からアフリカへの人材交流が促進されることは、とても良いことだと考えます。

日本の大学生のみならず、もっと若い高校生の段階からアフリカ現地を体験できれば良いなと思いました。

そうした相互での人材交流が日本とアフリカの関係強化に寄与するはずです。」

これまでもアフリカ諸国の学生たちが日本の大学にいることで、学内に異文化交流が生まれていた。この機会は、日本の学生たちがアフリカに関心を持つきっかけとしては良いが、アフリカを深く知ろうとすると、どうしてもイメージしづらい部分がある。

令和の今、アフリカへの渡航に関する情報も増え、かつアフリカ諸国も発展をし、インフラ面とソフト面の両方において外国人が訪れやすくなっている。実際、日本においても高校生からアフリカ渡航の経験がある若者たちが出てきている。ただ、それでもアフリカとの物理的な距離や保護者(送り出す側)の不安感、物価高による渡航費の高騰などがあり、なかなか一歩を踏み出せない人もまだまだいる。

そうした中で、先人たちによる「アフリカの現地を体験する」ことへの後押しは、一歩を踏み出しやすくなるだろう。

内藤氏「ABEイニシアティブは、日本とアフリカの関係強化に大きく貢献してきました。今後は、これまで育んできた架け橋人材の活用、相互でのビジネス機会の創出、日本のより若い世代の巻き込みなど、柔軟なアプローチで可能性をさらに広げられると思います。」

内藤智之氏 神戸情報大学院大学(KIC)副学長

架け橋役のアフリカ人材の活躍の次は、日本からアフリカへの矢印がより太くなることを日本、JICAの人材交流に対する取り組みには期待したい。そして、その日本からの人材が、日本国内における多文化共生のマインド醸成に大きな貢献をしてくれることを願っている。

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