毎年6月に台北市で開催される「COMPUTEX TAIPEI(コンピュテックス タイペイ)」は、パソコンの登場で大きく成長するコンピュータ市場に向けて、台湾企業の製品を紹介する場として1981年に始まりました。その名のとおりコンピュータ関連のハードウェアを中心に、半導体からスマホ、マウスまであらゆるものが出展される巨大なアキバのような展示会という印象でしたが、コロナ禍を経て4年ぶりの本格的な対面開催となった今年は、コンピューティングをテーマにしながらも全体的にビジネス色が強まり、グローバル市場に向けて新たなトレンドを発信する国際イベントへと成長していました。
会場の南港展覧館は台北駅から地下鉄で約20分の場所にあり、IT産業が集中する新興エリアでもあります。ホール1の1階と4階をメイン展示会場に、隣接するホール2ではスタートアップや産学官の研究開発、海外からの出展を集めたInnoVEX(イノベックス)が併催され、全体で26の国と地域から1,000社を超える出展がありました。5月28日から6月2日まで4日間の会期中に、150か国から47,594人が訪れ、数字だけ見ると前回の2019年にはまだまだ及びませんが、会場全体は活気にあふれていました。
自作パソコンやゲーミングマシン、オーバークロック大会といった、COMPUTEXの代名詞ともいえる展示はまだまだ残っていますが、企業ブースは比較的スペースに余裕があり、レイアウトやデザインに力を入れているところが目立ちます。中にはパソコンメーカーacerのように主力商品であるパソコンやスマホはほとんど展示せず、ファッショナブルなショップのような雰囲気の中でサスティナブルな生活をアピールしているメーカーもありました。
イメージを覆す大胆な演出をしているブースもあった。
今回の主要トピックスは以下の6つとなっています。
1. ハイパフォーマンス コンピューティング/high-performance computing
2. 人工知能アプリケーション/artificial intelligence application
3. 次世代接続/next-gen connectivity
4. ハイパーリアリティ/hyperreality
5. イノベーションとスタートアップ/innovations and startups
6. 持続可能性/sustainability
これらが取り上げられた背景には、今年最大の話題であったAI(人工知能)の存在が大きく影響しています。
急速に注目を集めるChatGPTをはじめとした生成系AIは、莫大なデータと計算力を必要とするハイパフォーマンス・コンピューティングの存在なしには実現できません。高度なアプリケーションを動かす高性能なAI専用チップの製造や、同時にコンピュータ間を高速に結ぶ通信技術も不可欠であり、これらの多くを台湾では主要産業としています。
基調講演に登壇した、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOをはじめ、Qualcomm、NXPといった半導体メーカーのトップは異口同音に、「AI時代の到来で社会のあらゆるものがスマート化され、高度な半導体技術が求められるだろう」と話し、台湾の存在意義がますます高まっていくことを伺わせていました。
基調講演では複数の企業トップがAI時代の到来を異口同音に語っていた。
会場のどこを見てもAI推しだらけ。
一方でハイパフォーマンス・コンピューティングは膨大なエネルギーを消費し、そこから出る廃熱をどう減らすかも大きな課題となっています。日本以上にエネルギーの輸入依存度が高い台湾にとって問題はかなり深刻であることは、開催重要トピックの一つにサスティナビリティを挙げていることからも伝わってきます。
また会場では、経営における社会的責任である「ECG=環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)」に参加し、国際的なサステナビリティ認証を取得した出展者はその証明である「ESG GO!」マークを表示できるようにしており、グリーンサプライチェーンに取り組んでいることをアピールしていました。
大手以外もたくさんの企業がサスティナビリティ認証「ECG Go!」マークを取得していた。
サスティナビリティの実現においてもう一つの鍵となるのが、省エネや高効率化を進めるスマート化です。日本のDXよりもさらにもう一歩踏み込んで、仕組み全体を変えていこうとしており、実現のための具体的なソリューションを提案する展示があちこちで見られました。
中でも台湾で長らく大きな社会問題となっている交通渋滞の解消やEV化に向けては、欧米企業との連携が進められています。それらをモビリティ市場の成長につなげようとする展示もあり、基調講演やフォーラムと呼ばれる発表会でも話題になり、参加者の注目を集めていました。
モビリティ関連の展示や発表に注目が集まっていた。
ロボティクスを活用したスマート・ファクトリーは海外で実績があり、世界各地への進出が発表されている半導体やバッテリー工場でも導入されていることが紹介されていました。ロボットアームやカメラの映像分析にAIは不可欠となっており、現場を管理するシステム開発技術といったソフトウェア開発では国内外で連携しながら力を入れていくということでした。
スマート化への取り組みは省エネと社会変革につながる。
さらに会場を回ると、メタバースでもっと盛り上がっていると思っていたVRのHMDやコンテンツはほとんどなく、ウェアラブルコンピューティングと呼ばれる小型カメラやディスプレイを搭載したスマートグラスや、メガネ型のARグラスを展示しているブースがあちこちにあることに気がつきました。
会場で話を聞くと、工場のライン作業は製造品によって変化が早く、指示も細かいので、ハンズフリーで操作でき、リモートで指示を出せるウェアラブルデバイスは便利なツールとして需要が伸びているとのこと。コンシューマ向けでは有線でつないでゲームや動画を大画面で見られる、価格の安いスマートグラスが人気だということで、メーカー側もそれらの製造販売に力を入れているそうです。
こうしたトレンドは世界から製造を受注している台湾だからこそいち早く見えるものもあるのかもしれません。
メガネ型ARスマートグラスはこれから人気アイテムになるかもしれない。
ホール2で開催されているInnoVEXは、22カ国から400のスタートアップが集まり、特に今年はEUとビジネスや産業クラスターのマッチング会議を会期にあわせて開催するなど、国としてもCOMPUTEXをビジネスチャンスにつなげようとしており、欧州からのブース出展が目立ちました。海洋やエネルギーに関する技術やサービスの提案もあり、例えばオランダブースでは、台湾が力を入れている洋上風力発電を専門とするメーカーが、自社の製品を売り込むと同時に設置や運営に必要な技術を持つ人材を募集していました。
欧州からの出展が多かった。
ITに限らずいまやビジネスは1社単体で成立するものはなく、大手企業の方が積極的にオープンイノベーションに取り組んでいます。台湾でもそうした大企業やスタートアップ同士のマッチングを後押ししており、InnoVEXでが国際市場の進出支援に力を入れていることがわかります。そうした起業家エコシステムの一つであるStartup Island TAIWAN は、「AI&データ」「ウェルネス」「スマートデバイス」などのテーマで国内外のスタートアップが集まるブースを海外のスタートアップイベントを参考にしながら演出していて、オープンな雰囲気を強調していたのが印象的でした。
交流がしやすいオープンな雰囲気を演出。
2016年からスタートしたInnoVEXは、最初は規模も小さく中国語しか通じないところも少なくありませんでした。しかし年を追うごとにそうした状況は変わり、今ではブース展示や資料は英語併記が当たり前でどこでも英語が通じ、日本語が話せるスタッフがいることもよくあります。日本と環境が似ているせいか取り上げられているテーマは、日本の社会課題解決の参考になるものがけっこうあり、規模は決して大きくないけれど、情報量や質は欧米のスタートアップ関連イベントと同じぐらい手応えがあり、社会起業家にとっては得られるものが多いのではないかと感じました。
日本からの出展もこれから増えそうだ。
コロナ前に比べると航空券や宿泊費の高騰に加え、日本の外貨レートが下がっている影響で、参加コストは3割から4割増しになっていますが、日本から片道3時間で時差は1時間しかなく、言葉も通じやすいうえに、食事は安くて24時間コンビニもある台湾は、海外展示会ビギナーにとって欧米より参加のハードルはかなり低いといえます。コンピューティング時代のトレンドを知り、社会課題のテーマや解決のヒントを得る場として、COMPUTEXへの参加を今から計画してみてはいかがでしょうか。
COMPUTEX TAIPEI