テクノロジーの活用で社会課題と向き合い、ピンチからチャンスを生み出していく

Innovator

人をつなぎ、地域をつなぎ、社会課題の解決に挑むNPO法人コミュニティリンク

少子高齢化を背景に加速する人材不足や、空き家問題、後継者不足による産業の衰退のほか、多発する犯罪や自然災害など、今、日本社会はさまざまな問題を抱えている。そうした社会課題の解決に向け、テクノロジーを活用したさまざまな取り組みを行っているのが、NPO法人コミュニティリンクだ。“人をつなぐ。地域をつなぐ。テクノロジーで社会を変える!”をミッションに掲げ、市民団体・行政・企業と連携を図り、地域社会に対してICT利活用に関する事業を展開。人と人をつなぎ、自治体をつなぎ、地域をつなげる情報通信基盤や情報通信サービスの創出を通して、安全安心で暮らしやすい地域社会及び活力ある地域経済の発展に寄与している。

今回、創業者の一人であり代表理事の中西雅幸氏と、理事を務める松村亮平氏にインタビューを実施。コミュニティリンクが運営する、起業家同士の交流や新たなビジネスの創出をサポートする『起業プラザひょうご』にお伺いし、組織立ち上げの経緯や活動への想い、将来のビジョンについて語っていただいた。

身近になりつつあったITを使って、商店街の学生の新たな挑戦から始まった

コミュニティリンク誕生の経緯をたどれば、その出発点は中西氏が近畿大学の学生時代にまで遡る。3年生の時に入ったゼミで、後にコミュニティリンク立ち上げメンバーの一人となる榊原貴倫氏と出会い、共に『ITを活用した商店街活性化』という研究テーマに取り組んだのがそもそもの始まりだったという。

中西:大学の前には駅前から続く商店街があり、飲食店や文具店など、学生が利用する店舗が数多く立ち並んでいました。ところが当時、「これからは大学内にある食堂や学生の居場所になるような施設が充実していく」という話が挙がっており、そうなると学生と商店街の接点が減ってしまうという大きな懸念があったのです。商店街会長には、「学生向けに昼食や夕食のメニューを提供していた飲食店をはじめ、商店街を気軽に利用する学生が減ってしまう。それでは商店の売上が減り、活気を失ってしまう」と強い危機感も……。そこで、その問題を解決すべく生まれたのが、「私たち学生のアイデアとITの技術を使って商店街を盛り上げていこう」というテーマでした。

中西氏たちゼミのメンバーが講じた施策は、マーケティングを目的に携帯電話を使ったモバイルスタンプラリーだ。当時、自宅にADSL等のインターネットが普及し始め、楽天市場やYahoo!ショップが浸透し始めたところで、携帯電話で画像1枚ダウンロードするにも、数秒かかるといったような時代。学生が店舗を訪れた際に、各店舗で発行されるIDを携帯電話で専用のホームページに入力すると、ポイントを取得できるような仕組みをつくりあげた。その仕組みを使ってスタンプラリーのようなイベントを展開し、店舗利用を促進すると同時に利用状況のデータを収集。曜日・時間帯や、ユーザの店舗周回率、天候などを掛け合わせてデータ分析し、商店街全体やモバイルスタンプラリー参加店舗に対して、実施結果のフィードバックを行った。

学生時代の中西氏 地域の方々と協働しながら活動を行っていった。

また、このような活動を継続していくうえで、ゼミの活動が大学3~4年の2年間しかなく、卒業によって毎年メンバーが入れ替わってしまうことが大きな障害に。そこで、学生団体をNPO法人化する案についても話し合いも進めていた。

時まさにNPO法の成立でさまざまな組織が誕生していた時代でもあり、「さまざまな面において後の人生へとつながる貴重な経験だった」と中西氏。とはいえ、学生時代の経験だけではまだまだ知識も視野も狭く、社会の全体像を学ぶために大手企業への就職を志望。偶然にも、1年先に卒業した榊原氏がいる大手SIerに入社が決まり、不思議な縁のつながりを感じていたそうだ。

その後、SEとしてさまざまなシステム開発プロジェクトに関わっていく中西氏。もともと起業を目指していた榊原氏と仕事終わりや休日に語り合うなかで、「もっと地域に出て課題と向き合うような、フィールド(現場)で活動する必要があるのではないか」と感じるようになり、会社を退職。一旦、地元関西に帰省した後に榊原氏の実家のある宝塚市に集結し、「まずは自分たちで仕事をつくりだそう」と再スタートを切った。

宝塚市での活動の一つ ITを使うことでより便利に効率になることを実証していった。

中西:私たちにとって幸運だったのは、宝塚には社会起業家の育成に力を入れておられたNPO法人宝塚NPOセンターの森綾子さんとの出会いがあったこと。森さんは、地域社会のことを知らない私たちのメンター役となって、「この人を紹介するよ」「地域のことを知るならここに行った方が良いよ」など、たくさんのアドバイスやチャンスをくださったのです。

そんな森さんからの力強いバックアップを受けながら、中西氏たちが街を歩いて感じ取った地域活動の担い手不足や情報発信力の弱さ、地域社会のローテクな部分に対して、ホームページやブログの活用の提案。Youtubeもほとんど知られていない頃にインターネット中継の最新技術を使ってまちづくりフォーラムを配信に挑戦するなど、ITを使うことでより便利に効率的になることを実証していき、自治会やまちづくり協議会、NPO活動者、そして行政の人々と共に取り組んでいった。

目指すのはテクノロジーの社会実装。地域の最前線に立ち、実績を積み重ねていく

以後、宝塚市での確かなネットワークを活かした森氏のサポートを受けながら、中西氏たちは実績づくりや人脈づくりに邁進する。「テクノロジーの社会実装」に主眼を置き、企画立案から制作、現場での運用に至るまで、目に見える成果を実現。その活動はやがて自治体からも評価され、コミュニティリンクはその認知度を高めていった。

一方、松村氏は「安定した組織よりも自分を追い込む環境のほうが性に合う」と、大学卒業後、IT系ベンチャー企業に入社。エンジニアとしてWEBサービスの開発やプロジェクトマネジメントの分野で経験を積みながらも、学生時代から抱いていた「社会課題を解決する仕事がしたい」「日本の未来に残すべき仕事をしたい」という想いを叶えるため、独立してフリーランスへ。さまざまな地域を回り、テクノロジーによる社会課題の解決の道を模索したという。

松村:当時、東日本大震災を契機に、各地で地域支援活動の波が沸き起こっていた時でした。世の中的には、市民活動として、テクノロジーを社会課題解決に活用し始めた黎明期です。一方で、仕事として取り組むには時期尚早かな……そう思っていた時に出会ったのが、コミュニティリンクでした。

中西氏ら創業メンバーがすでに実行に移していたコミュニティリンクの活動に「地域✕テクノロジー」の可能性を感じ参画を決意。理事として仲間に加わり、共に活動に取り組んでいくことになる。

そして2015年、神戸市に同行する形で米国サンフランシスコとシリコンバレーを視察し、スタートアップ支援の最前線を体験。翌年の2016年、神戸市は日本初となる自治体アクセラレーションプログラム「500 KOBE ACCELERATOR」を始動。コミュニティリンクでは松村氏が中心となり、2018年、スタートアップ企業と行政職員の協働を生み出すオープンイノベーション・プラットフォーム「Urban Innovation KOBE」をスタートさせた。これによって自治体の課題とスタートアップ企業が持つ最新テクノロジーやアイデアをマッチングさせ、解決に向けたさまざまなプロジェクトを生み出していく。

松村:神戸から始まったこの取り組みは各地方自治体からも注目されるようになり、2019年に「Urban Innovation JAPAN」として全国へ拡大。2022年には累計22の自治体が参画し、企業からの応募数は1300以上にも登ります。社会課題の解決と新たな産業の創出、そのふたつのバランスを図りながら、地域と企業、人と人をつなげていくのが私たちの役割です。

IT導入はあくまでも手段。解決のために本当に必要なのは“人のチカラ”

NPOや自治会、まちづくり協議会と共に、市民活動の情報発信に取り組むところからのスタートした創業時から、シビックテックやオープンデータの時代の流れに伴う地域におけるオープンデータの推進、地域データの利活用による持続可能な社会に向けたプロジェクトの企画・運営と、徐々に活動領域を広げてきたコミュニティリンク。しかし、その歩みは最初から順調だったわけではないと、中西氏は振り返る。

中西:立ち上げ当初はまだスマートフォンさえない時代。「ITを活用したまちづくり」と謳っても、理解を得られないことがほとんど。私たち自身も最初から「ITで社会課題の解決を!」と大きく構えていたわけではなく、「困り事があるなら、身の回りにあるITを使えばもっと便利になるよね」というぐらいのスタンスで動いていましたね。だから、最初の頃の私たちは、“動画を撮る人”だったり“WEBサイトをつくる人”、“発信する情報を一緒に考えてくれる人”だったり、言ってしまえば何でも屋(笑)。それでも、現場の第一線でリアルな課題や問題と一つひとつ取り組むことで、周りの認識や期待感がだんだんと変わっていったように思います。

さらに、社会や地域の課題が深刻化・顕在化していく一方で、テクノロジーも劇的に進化。課題解決に向けたテクノロジー活用が、いよいよ本格的に求められる時代に突入したと言える。

松村:たとえば、児童虐待という課題ですが、これまでにも防止策は考えられてきたものの、なかなか解決には至っていません。ここに私たちはビッグデータの活用の余地があると考えていて、給食費の滞納や相談記録といった情報を取り込みAIで機械学習させることで発生リスクのパーセンテージを割り出し、虐待の予測につなげることで、多忙な児童相談員等を強力にバックアップすることも可能です。また、防災や防犯面においては、昔からある地域の「火の用心」の夜回りに、警察庁が出している防犯データなどのオープンデータを活用・分析すれば、さらに効果的なパトロールにできるはず。これまで、人の体験や勘を頼りにしていたところにテクノロジーを加えることで、従来不可能だと考えられていた領域にも踏み込んでいけるのではないでしょうか。

さまざまな可能性が広がるテクノロジーによる課題解決だが、「もちろんそこには人の力が不可欠」だと両氏は声を揃える。

中西:テクノロジーが一撃で課題を解決するような“銀の弾丸”になることは絶対にない。テクノロジーを導入することが主目的ではなく、人が主体となってテクノロジーを活用しながら課題に向き合っていくことが、事態改善につながる第一歩になるでしょう。

松村:そのためにも、まず目に見えない社会不安を可視化することが重要です。課題をしっかりと顕在化し、取り組みのための土壌をつくりあげることがコミュニティリンクの重要な役割のひとつだと思っています。

未来を生み出すプラットフォームとして、最前線に立ち続けたい

さまざまな社会課題を抱えている現代の日本。なかでも、少子高齢化を起因とする人手不足はあらゆる方面に暗い影を投げかけている。そのなかのひとつが行政機能の低下だ。人口減少からくる税収の縮小は暮らしを支えるインフラ整備に大きく影響し、人員が減ることでサービスの停滞も懸念される。「これまでのように国や自治体を頼るという時代は終焉を迎え、今後は市民一人ひとりが自分の出来る力を発揮する、マルチステークホルダーで課題解決に向かう社会へと進化していくだろう」と、両氏は先を見据えている。

松村:そうした時代にコミュニティリンクで働くことの意義は、これからの日本の可能性を創ることにあると考えています。今、日本が進んでいる少子高齢化の道は、いずれ世界の各国がたどる道です。もし日本がこの課題を解決する方策を見つけられれば世界に向けて大きなアドバンテージになり、そこで生まれたサービスを各国に輸出することも可能。まさにピンチをチャンスに変えることができるのです。

そんな未来に大きな希望を抱きつつ、だからこそ若い人材には、若いうちにいろんなことに挑戦し、数多くの失敗を経験して欲しいと両氏は言及する。

中西:まずは実際に物事が起きている現場の最前線に立って欲しい。今はインターネットやSNSを使って多くの情報を瞬時に入手できるけど、現場でしか見えてこないものもたくさんある。それを自分自身で感じ取ることも重要だし、幅広い年代の人々と世代間を超えたフラットな議論を重ねることで、新しい視点や知恵を獲得できるはず。そして、実際の経験を通して得る失敗や成功、物事を見極める原体験を、しっかりと積み上げて欲しいですね。

PCの前で考え悩むよりも、まずひとつの行動を――。

まだ社会に前例がなく、手探りで進むしかなかった道を切り拓いてきたコミュニティリンクが指し示すのは、これから未来を築いていく人材への力強いサポートだ。「解決すべき課題は山ほどあるけれど、技術は進化し出来ることはどんどん増えています。私たちはこれからも課題を見つけ出し、解決に向けたプロジェクトを創出する、未来を生み出すプラットフォームであり続けたいですね」と両氏。

テクノロジーで社会課題を解決するという彼らの挑戦は、まだまだ始まったばかりなのだ。

profile

(左)中西 雅幸

Masayuki Nakanishi

1981年生まれ。2004年3月近畿大学商経学部商学科に在学中、「ITを活用した商店街活性化」をゼミの研究テーマとして、近畿大学前商店会と連携し商店街活性化に取り組む。卒業後NECソフト株式会社に入社。その後、大学時代の貴重な地域活動の経験もきっかけとなり、起業メンバー3人と共に兵庫県宝塚市を拠点に任意団体として活動を開始。2008年8月に特定非営利活動法人コミュニティリンクを設立し、2014年より代表理事として幅広く活動中。

(右)松村 亮平

Ryohei Matsumura

1984年生まれ。大学卒業後、スタートアップのIT企業に入社。エンジニアとして幅広い経験を積んだ後、フリーランスとして独立。フリーランス時代に日本の各地域を見て回ったことで「地域 × テクノロジー」の可能性を感じ、NPO法人コミュニティリンクに参画し、現在は理事。Urban Innovation KOBEの立ち上げを手掛け、現在はUrban Innovation JAPANの運営を通して、さまざまなプロジェクトに携わる。

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