アフリカ・ルワンダと日本を、オーダーメイドの洋服で繋ぐ。社会起業家・松原理恵さん

Innovator

なぜ彼女は、ルワンダへ。

アフリカ東部に位置するルワンダ共和国は、1994年に発生したジェノサイドで国民の約1割が命を落とした。「ルワンダの虐殺」と名付けられたこの悲劇的な出来事を通じて、ルワンダは世界的に名前を知られることになった小さな内陸国だ。

2021年9月に神戸情報大学院大学(KIC)を卒業した松原理恵さんは、ルワンダと日本をデジタルでつなぎビジネスを創出する、社会起業家としての歩みを進めている。松原さんはなぜ、ルワンダに心惹かれるようになったのか。そしてこれからルワンダで何を成し遂げようとしているのだろうか。

ジェノサイドとは、国家・民族・人種を計画的に破壊する行為です。「ルワンダの虐殺」で悲惨な状況に陥ったルワンダですが、その後、ポール・カガメ大統領が政治汚職の払拭などの取り組みで強いリーダシップを発揮。これによりルワンダは、アフリカで最も政治腐敗の少ない国の一つといわれるようになりました。また、経済発展も目覚ましく、「アフリカの奇跡」と形容されています。

profile

松原 理恵

Rie Matsubara

鹿児島県出身。中学校3年から高校卒業まで、父親の仕事の関係でマレーシアとシンガポールへ。マレーシアで貧困にあえぐ人たちを目の当たりにし、国際貢献に興味を持つ。帰国後、早稲田大学国際教養学部に入学し、ルワンダのシングルマザー支援の取り組みに興味を持つ。社会人経験を積んだ後、2019年9月に神戸情報大学院大学に入学、2021年9月修了。KIC在学中からルワンダのテーラーと協力し、雇用創出を目指す社会起業家として活動している。

そんなルワンダで、私が何をしようとしているのか?

ルワンダでは、カラフルで美しい布地が市場にそろっています。その理由は、ルワンダ人の9割近くがキリスト教徒で、教会へ行く際の晴れ着を新調する機会が多いということと、布地が嫁入り道具のひとつになっているなどが挙げられます。日本ではなかなか出会えないようなルワンダに集まった美しい布地を使って、カスタムメイドでドレスやスーツがオーダーできれば、ルワンダの人たちの雇用につながると同時に、買い手のニーズとサイズにフィットしたオリジナルの洋服を日本国内で提供することができると考えたのです。

 

始まりは、「Kiseki(奇跡)」という名前の付いたレストラン。

私とルワンダの出会いは、早稲田大学で国際関係について学んでいた頃のことです。ゼミの教授がアフリカに詳しい方で、ゼミを通じてルワンダ首都のキガリで「Kiseki Authentic Japanese Restaurant」という日本食レストランを経営している日本人女性を知りました。その方は、現地でシングルマザーの支援にも取り組んでおられ、「私もいつかは日本を飛び出して国際貢献・国際協力をしたい」という思いを抱くようになりました。

大学卒業後は、都内で外資系IT企業に就職して営業をしていました。約7年間の社会人生活を経て30歳になり、社会人としての自信もついたと実感し「大学生のときに志した国際貢献に取り組むときがきた」と決意し、勤めていた会社を退職。日本で唯一ICT4D(ICTを使った社会・経済開発)を学べるKICの門を叩きました。

KICに入学してしばらくしてから、約10日間の旅程でルワンダに行きました。国際貢献・国際協力に繋がるビジネスを創れないかと考えていたので、実際に現地に赴いて「Kiseki Authentic Japanese Restaurant」の経営者にアドバイスをいただこうと考えたのです。その当時私が考えていた事業計画は「ECサイトを通じて、現地の人びとにオーガニック食材を販売する」というもの。ところが、ルワンダでは農薬が高価であることもあり、現地の多くの野菜がオーガニック食材という指摘をいただき、事業計画の変更を余儀なくされました。

その後、何か面白そうなテーマはないかと、ルワンダの首都キガリを散策していたときのことです。そこで印象に残ったのは、カラフルで美しい布地が並ぶ市場と、市場周辺でミシンを構えてお客さんを待っているテーラーの姿でした。聞けば、市場で布地を買って、仕立てをテーラーに依頼する仕組みということでした。鮮やかな布地が美しく並び、テーラーが活き活きと働いている市場の様子は圧巻でした。

KIC在学中、ルワンダ訪問時の一枚

ジョシュアとクラリス。

ルワンダの、鮮やかな布地とテーラーの姿が印象に残った私は、デジタルで彼らとつながり、共にビジネスを創出すること、それによってルワンダの雇用創出に貢献することを卒業研究のテーマにしました。

転機になったのは、ルワンダからKICの留学生として学んでいたジョシュアとの出会いです。ジョシュアの親戚のクラリスという女性が、ルワンダで10人ほどのテーラーを雇用して工房を経営しているというのです。

(左)KICで共に学んだジョシュア (右)ビジネスパートナーのクラリス

クラリスは現在33歳。私と同い年で4人の子どもを育てています。彼女は、ジェノサイドで両親を亡くし孤児となる体験をし、義親のもとで育ったそうです。幼い頃からオシャレが大好きで、買い与えられた洋服のデザインで満足できないときは、自分でアレンジして好きな洋服をつくっていたといいます。やがてミシンを買い、工房を立ち上げてテーラーを雇用してビジネスを行っているというたくましさを持った女性です。

私とクラリスは普段英語でやり取りをします。しかし言葉は通じても、異なるバックグラウンドを持つ私たちにとって、互いの違いを理解するのは簡単ではありません。そんなときはジョシュアが間に立って、微妙なニュアンスを双方に説明してくれて、お互いのことをより理解し合えるようになりました。

ジョシュアは「私はサポーターだよ」と言っていましたが、私は同志だと思っており、彼にとても感謝しています。彼は、KIC修了後、上京してIT系企業に勤務していますが、彼の存在が無ければ、今の社会起業家としての私は無かったと思っています。

ルワンダの布地市場で買い物をしている臨場感

クラリスと私は最初にサンプルの洋服づくりに取り組みました。私の友人・知人に声をかけて、布地のイメージをヒアリングして、ワンピースやスカートをクラリスにオーダーしました。

現地で、布地を選ぶ担当をしているのはクラリスのもとで働く17歳の女性でした。彼女は、私が伝えたイメージをもとに布地市場から「こんなのはどう?」と写真を送ってくれます。

このやり取りは、日本に居ながら、ルワンダの布地市場で本当に買い物をしているかのような錯覚に陥るほど楽しかったのです。この楽しさを感じるたびに、これから立ち上げるこのビジネスの可能性を感じました。

試行錯誤を経て、レディースはワンピースとスカート、メンズはジャケットにアイテムを絞りました。オーダーを依頼した友人、知人からの評判も上々です。

クラリスと共に作ったカスタムメイドのワンピース(右端の男性はジョシュア)

国際協力とは、お互いに助け、学び、貢献し合うこと。

このプロジェクトを通じて私が学んでいること。それは、当初私が志していた国際貢献・国際協力の本質が、一方がもう一方を支えるというものではなく、実際は、お互いに助け合い、学び合い、貢献し合うことなのだということです。

私には、洋服を仕立てる技術・ノウハウはありません。そして、クラリスと工房のテーラーたちは、私と仕事をすることで、品質やデザインなど、新しい仕事の世界を学んでいると思います。国も境遇も得意としていることも違う私たちが一つのプロジェクトに取り組むことの醍醐味を日々感じています。

2021年9月にKIC修了した後、ルワンダに移住して、まだオンラインでしか顔を合わせたことのないクラリスと共に現地で事業を本格化する予定でしたが、新型コロナウイルスの変異株拡大の影響で、足止め状態が続いています。

ルワンダへの移住が実現するまでは、日本でできる準備をしっかりと行おうと思っていますが、一日も早くルワンダに行きたいですね。クラリスや工房の人たちと会いたいという気持ちが日に日に膨らんでいます。彼女たちと顔を合わせたときに、きっと新たな展開が拓かれていくと確信しています。

(この記事は、2021年12月9日に取材をした内容をもとに制作しました)

する『知識』を発信する
Webマガジン