2023年12月27日、駐日コンゴ民主共和国大使として信任状を捧呈されたルクムエナ・センダ閣下。1984年に来日し、大阪大大学院で博士号を取得後、建築家として活躍しながら神戸情報大学院大学(KIC)の教授としてアフリカからの留学生をはじめ、多くの学生を指導。2011年からは文化、アート、 食、ファッション&ミュージックという4つの要素を軸にリアルなアフリカの情報を発信する「アフリカミーツ関西」の代表を務め、アフリカと日本の交流を深める数多くの民間交流事業を手掛けてこられました。KIC教授時代のルクムエナ・センダ閣下の単独取材はコチラをご覧ください。
そんなセンダ閣下をお招きし、2024年6月5日、学校法人コンピュータ総合学園 神戸情報大学院大学(KIC)/神戸電子専門学校が講演会『まるっとアフリカ学 ~関西とアフリカの絆~』を開催。会場となったKIC・北野館には、アフリカからの留学生を含む約80名もの参加者が集まりました。
冒頭の挨拶には、KIC学長代理・福岡賢二氏と、独立行政法人国際協力機構JICA関西センター所長・木村出氏が登壇。木村氏は長年のアフリカと日本の関係に触れつつ、2024年の今年、日本の国際協力ODA(Official Development Assistance)が70周年を迎えたことに言及し、「両国で学ぶ若い人材が今後のアフリカと関西の関係を深め、発展させていく主体になるはずですし、本講演でのセンダ閣下のお話が、さらなる行動につながるきっかけになれば」と、期待を述べられました。
お二人の言葉を受けて話を始めたセンダ閣下は、来日からの40年を振り返り、日本を「もうひとつの母国」と表現。なかでも、1993年より日本主導で始まったTICAD(アフリカ開発会議)について「世界で初めてアフリカを中心に置いたアプローチであり、アフリカと日本の関係性を深めた最も大きな第一歩だった」というところから、講演がスタートしました。
2014年に、「アフリカミーツ関西」のイベントを開催することになった際、センダ閣下はポスターを作成することになったと言います。明るくポップな色彩とタッチで描かれたアフリカの国土と、偶然にも形がそっくりな関西の国土を並べ、“心に絆”のキャッチコピーでつなぎました。そこには、アフリカに抱かれがちな「貧しい」「暗い」というイメージを払拭するとともに、「絆」という人々が助け合ったり支え合ったりする時に感じる温かい感情をイメージさせる言葉をメッセージとして伝えたいという思いがあったそうです。
アフリカを語るキーワードとして、センダ閣下は「資源」「自然の風景」「アフリカ連合(AU:African Union)」という3つのテーマを用意しました。
まず、資源について。メルカトル図法によって描かれた世界地図では、アフリカ大陸はグリーンランドとほぼ同じ大きさに見えますが、実際にはアメリカ・ヨーロッパ・中国・インド・日本がすっぽりと入ってしまうほどの広大さ。そのなかに、金やダイヤモンド、レアメタルなど世界中が欲しがる資源の1/3を保有しているといわれており、「それが紛争につながり、発展を阻む要因にもなっている」と、センダ閣下は指摘します。
次に、風景としては、多くの野生動物が生息するサバンナをはじめ、広大な砂漠、シェーセル島のような美しい海辺、世界三大瀑布に数えられる「ビクトリアの滝」など、実に豊か。一見、ありそうにない雪景色も、一年中山頂に雪を積もらせる標高5,895mのキリマンジャロがあります。また、エチオピアからソマリア、コンゴ、ケニア、ルワンダ、ブルンジなどアフリカ東部一帯では田園風景を見ることができ、「コンゴ民主共和国東部の鉱物資源であるコバルトは、皆さんが使っているスマートフォンのバッテリーにも使われているんですよ」と教えてくれました。
そして、AUについて。20世紀初頭に起こった、アフリカ大陸を植民地支配から開放しようという「パン・アフリカニズム」のムーブメントを受け、60年代にアフリカ諸国が次々と独立。政治的・経済的統合を目指し、1963年にアフリカ統一機構(OAU:Organization of African Unity)が設立され、その発展・改組として、2002年にAUが発足しました。「アフリカ統一の動きは、ヨーロッパ連合(EU)が誕生するずっと前から起こっていたんですね」と、センダ閣下は語ります。
「今、AUの取り組んでいる、メインテーマのひとつが教育です」とセンダ閣下。人種差別撤廃に生涯を捧げたネルソン・マンデラ氏の名言「Education is the most important weapon with which to change society(教育は、社会を変えるための最も重要な武器)」を挙げながら、アフリカユニオンにおける人材教育について話しました。
アフリカを将来の世界の大国に変える「アジェンダ2063」に向けたロードマップとして、2024年のAUのテーマは「教育」です。「なかでも、従来の汎用的な教育からプロフェッショナルの育成を目指す専門学校教育に力を入れている」と、近年の変化について述べるセンダ閣下。その取り組みのなかにあるのが、AUとアフリカ大学協会が支援する大学院研修・研究拠点のネットワークである「パンアフリカ大学(PAU:Pan-African University)」であり、アフリカ大陸内で共通で使うことのできる「アフリカパスポート」です。これらによってより高度な学びを自由に受けられ、また、アフリカ大陸内を自由に動けるようになることで、アフリカの未来を築く優秀な人材の育成を目指しているのです。
「これまで、アフリカの他の国に行こうと思うと、その国ごとにビザが必要。10カ国に行くとなると10のビザを取らなければなりませんでした。これを止めようと。大学も同じで、たとえば大阪大学で勉強し、次の学期は東京大学で勉強しようというように、自由な学びを実現しようとしているわけです」。
ここで、センダ閣下は外交官について述べながら、人と人との「距離感」について触れました。「外交官の多くは、その国を理解する際に主に経済面を見てきました。しかし、最近わかってきたことは、経済よりもソフトパワー、つまり文化を知ることが重要ということです」。
例えば異なる国が新たにビジネスを始めるなかで、「騙した」「騙された」といったトラブルが起こることがあります。それは、互いに相手の文化を理解することで解決できるのではないかとセンダ閣下は話します。
「アフリカと日本の距離は、どんな科学技術を使おうとも物理的に変えることはできません。でも、心の距離なら変えることができる。お互いの文化を理解することでどのようなビジネスを行えば上手く行くか、気持ちのレベルで分かるのです」。
そんな心の距離を“ゼロkm”と言うセンダ閣下は、「だからこそ、アフリカと日本の外交は、もっとたくさんのイベントを行うべき」だと話します。
また、世界をつなげる技術として、ICTの重要性にも言及。通信技術を活用することで物理的な空間に居ながら、インターネットを通して世界中に発信し、届けていくことができます。
「この心のゼロkmをどう発展させていけば将来につながっていくのか、それもひとつの課題だと思います。私達は、まだまだ強いコミュニケーションが必要です。その先には、全世界とつながっていけるポテンシャルがあるのです」。
最後に、「アフリカミーツ関西」誕生の経緯を振り返りながら、センダ閣下から未来への想いが語られました。
1984年10月に来日したセンダ閣下は、その年の大晦日に、タンザニア、ケニア、コンゴの仲間たちと集まり初詣のお酒を呑みながら「何かやろう」とチームを作ったそうです。
数年後には黒人の美術館をつくりチャリティ販売を実施。次第に、「一方通行」の活動に限界を感じ、「双方向」の活動を目指すように。その流れのなかで文化交流イベント「AFRICAN NITE(アフリカン ナイト)」をスタートさせ、そこから「アフリカミーツ関西」が誕生しました。
「アフリカミーツ関西」では、さまざまなイベントを開催するほか、「アフリカミーツ関西プロジェクト」としてアフリカの地域や教育現場に電気を届ける活動や、単なる物資の供給にとどまらずアフリカ人自らがビジネスを生み出していけるようなサステナブルな支援を行うなど、幅広い活動を展開。そうした活動が認められ、このたび、駐日コンゴ民主共和国大使の推薦を受けたセンダ閣下。大学院や建築の仕事を一度休んででも「やるべきだ」と心を突き動かしたのは、アフリカと関西の未来を想う「気持ち」だったと言います。
2019年、G20大阪サミットに合わせ、アフリカと日本の子どもたちが集まり、未来について語り合う「Africa子どもサミット」を開催。「2025年の大阪万博には、その時の子どもたちを招き、再び活発なコミュニケーションを取って欲しいですね」と、将来を担う人材に思いを馳せ、和やかな雰囲気の中で講演会は幕を閉じました。
今回のテーマである「関西とアフリカの絆」を通して、伝えたい想いは何だったのか、そして、アフリカと関西・日本との間に、今後期待したいこと、これからを担う若い世代へ伝えたいことは?センダ閣下は語ります。
「それは「正しいアフリカ」を伝えたいということ。その想いは、日本に来てからずっと同じなんです。これまでに語られているアフリカのストーリーには、正しいこともあれば間違っていることもあります。そのなかにある誤解や偏見、先入観をいかに解消していくか……。それには、アフリカのことをよく知っているアフリカ人自らがアフリカのことを語っていくことが大事なのです。良い面、悪い面を含め、正しくアフリカを理解してもらいたいという想いですね。
そして、もっとたくさんの交流をするべきです。その方法はいろいろありますが、やはりイベントが1番効果的ではないでしょうか。多くの人が集まりさまざまな角度から情報交換が行われるだけでなく、SNSを通じて広く拡散することもできます。さらに、そこから新たなコミュニケーションが生まれ、より深いレベルで交流することができるからです。そんなイベントの持つ力は、まだまだ十分に発揮されていないと思うので、これからどんどん交流イベントが増えていくことを願っています。
ずっと私が感じているのは、会話が足りていないということですね。今の時代、「人と会話をするチャンスが少ない」「人とどう接していいのか分からなくなっている」と言われていますが、コミュニケーションの方法は対面だけでなく、SNSやインターネットを通じて別の形が生まれてきていると思うのです。これまで信じられてきた「こうあるべき」という会話の形は、数あるうちのひとつでしかない。スマートフォンで自分の好きなコンテンツやコミュニティのなかで多くの人とつながっていく、新たな可能性が生まれてきているのだと思います。だから、私達大人も「こうあるべき」という固定概念を取り払い、新しいコミュニケーションをどんどん追求していくべき。そのなかで、もっと広く、もっと自由に、人と人の絆を結んで欲しいと思います。」