データの流通革命「オープンデータ」で、誰もが創造者になれる未来へ

Digital

jig.jp 福野泰介氏 × KIC 二見強史氏のオープンデータ対談

国や地方自治体など、公共機関が保有する膨大なデータを公開し、社会課題の解決や新たな事業・サービスの創出、地域経済の活性化などにつなげていく取り組みとして、世界的な広がりを見せているオープンデータ。日本では2012年から本格的にスタートし、2016年には「官民データ活用推進基本法」が施行。デジタル庁が運営する「オープンデータカタログサイト」には、現在、約28,000 件ものデータセットが公開されている。

もちろん、動いているのは政府だけではない。地域経済活動や生活に密着した豊富な情報を保有し、かつ、さまざま解決課題を抱えている地方自治体の中から、スピード感を持って多様な施策を展開する事例が顕れている。なかでも福井県鯖江市は、2010年頃からいち早くオープンデータの活用に着手し、日本の自治体で初めてWeb技術の標準化を行う非営利団体であるW3C(World Wide Web Consortium)に加入するなど、日本のオープンデータ界を牽引する存在として注目を集めている。

今回、そのキーマンの一人であるjig.jpの創業者・取締役会長の福野泰介氏をお招きし、神戸情報大学院大学 (KIC)の教員であり、さまざまな都道府県でITガバナンスを担うCIO補佐官を勤めてきた二見強史准教授がオンラインインタビューを実施。国や自治体と協働するITのプロフェッショナルであり、次代の人材を育成する教育者である2人が、日本のオープンデータについて熱く語り合った。

(左)KIC 二見強史准教授(右)jig.jp 福野泰介氏

(左)神戸情報大学院大学 二見強史准教授 (右)jig.jp 取締役会長 福野泰介氏

profile

福野 泰介

Taisuke Fukuno

1978年石川県生まれ。国立福井工業高等専門学校を卒業後、フリープログラマーをしながら21歳の時に起業。2003年に現在の株式会社jig.jpを設立し、パソコン用サイトを携帯電話の画面で閲覧するための世界初のJavaフルブラウザ「jigブラウザ」を開発。プログラミング教育で子供たちに学ぶ場を提供すると同時に、鯖江市のIT化・発展に寄与。いち早くオープンデータに踏み切り、鯖江市を日本最先端へ導く。

デジタル庁 オープンデータ伝道師/総務省 地域情報化アドバイザー/

福井高専 未来戦略アドバイザー

二見 強史

Tsuyoshi Futami

1981年4月横浜国立大学経済学部を卒業し、高砂市役所に奉職。健康課、国保課、市民税課、契約課、企画課を経て市長公室秘書係長。その後、民間企業のシステムエンジニアとして民需、公営企業、自治体システムの開発とプロジェクトマネジメントを歴任。2013年から奈良県主幹(CIO補佐官)、佐賀県情報監を歴任。2016年に都道府県CIOフォーラム会長に就任。現在、神戸情報大学院大学情報技術研究科准教授として勤務。

情報処理技術者(ITストラテジスト)/

一般社団法人全国地域情報化推進協会ICT地域イノベーション委員会

課題山積のオープンデータ。状況を打開するのは、現場に寄りそう視点とものづくり

二見:現在、日本では国を挙げてオープンデータへの取り組みがなされていますが、現場ではさまざまな解決課題が山積みで容易には進まない現状もあります。そんななか、鯖江市のスピード感には目を見張るものがありますが、どのように進めていかれたのですか?

福野:もともと鯖江市とは2006年頃から交流があって、「鯖江市をITの街にしたい」という市長の想いを伺っていたのです。そこで、2010年、当時のW3Cサイトマネージャーで慶応義塾大学特任教授だった一色正男先生(現・神奈川工科大学教授)と一緒に、世界的な盛り上がりを見せ始めていたオープンデータを提案したのが始まりです。
私たちが提示したのは、予算ゼロからのスタート。とにかく小さく始めることが大事だということで、「データさえ出してくれれば無償でアプリを作ります」と(笑)。「じゃあやろう」とその場で即決しましたね。

2010年12月に牧野百男鯖江市長(当時)に提案。約1年後の2012年1月に日本初のオープンデータが誕生した

二見:それにしても即決とはすごいですね。

福野:市長が「まずはやってみる。ダメなら修正すればいい」というマインドをもっていらっしゃったことと、ちょうどその年に、市役所の持っている情報は広く共有して市民が主役となって街をつくっていこうという「鯖江市民主役条例」が制定されたことも大きな要因だったと思います。

二見:私自身も2013年頃から都道府県CIOフォーラムでオープンデータにも取り組んできましたが、従来の個別の情報公開請求にまつわる膨大な手間や時間が削減される一方で、「企業にとっては競争相手にも同じデータが公開されることで差別化がしにくくなる」という声や、「機械処理しやすいデータは人にとっては見えにくいので、わざわざ見えにくくするのはどうなんだろう」という声も聞こえてきて、なかなか一筋縄ではいかないなという実感でした。

福野:確かに、現場の声としてはその通りだと思うので、オープンデータを推進していく上では、そういった現状に寄り添ったアプリづくりをしていくべきですよね。
私が今感じているのは、データをどう見せるかというところに目が行きがちだけれども、一番必要なのは、いかに迅速に正確なデータを公開すること。たとえば行政からアップされるPDFデータをアプリで利用しやすい形式(JSON/CSV)に変換するプログラムの場合、PDFに変更や追加がある度にプログラムを修正しなければなりません。元データをCSV形式でアップしてもらえれば、迅速に自動生成することが可能になります。

二見:PDFが多いのは、CSVを含むローデータに比べて改ざんされる可能性がほぼないからでは?

福野:大元の一次情報を自治体が出しておけば、改ざんの有無は確認できるので問題ないはず。むしろ、CSVのほうが検証しやすいので、改ざんには強くなると思いますね。

二見:そのほかにも、XMLやJSONなどのデータ形式もありますね。たとえば、マイナンバーで流通している特定個人情報などはXMLファイルですが、今後、そういったデータ形式が出てくるのはどう思われますか?

福野:そうですね、JSONなどは人気なんですが、柔軟性が高い反面けっこう解析が大変で……(笑)。伝わりやすさという意味では、一般の人にもエンジニアにも使いやすいCSVがベストだと私は考えています。

gBizIDを活用して、ビジネスの未来を考える

二見:実は、以前私のゼミに韓国と台湾からの留学生がいて、彼らはデータ・サイエンスについて学びに来たんだけど「日本のオープンデータはもっと進んでいるのかと思ったが、そうでもなかった」と言われたことがありました。実際、世界のなかでの日本は両国よりも遅れをとっていると思われますか?

福野:特に日本が遅れているとは、私は思わないですけどね。確かに台湾などは活用事例が豊富だし、政府に強制力があると一気に広がるという強みを持っているでしょう。一方、日本では2018年には全都道府県でオープンデータへの取り組みが始まっており、特に、2019年から2020年にかけて、急速にその数が伸びているというデータもあります。今後さらに、その活動は勢いを増していくはずです。もちろん、そのためにはまだまだ解決すべき課題もたくさんありますし、たとえば公開データの精度を向上させ信頼性を高めるためのツールであるとか、さまざまな環境づくりが必要でしょう。

二見:新たなチャレンジが求められることも、どんどん増えてくるでしょうね。ちなみに、2021年11月に公開した大阪府堺市の企業オープンデータサイト「さかしる」でgBizIDを使っておられますが、それなども新たな取り組みのひとつでしょうか。

福野:そうですね。実は、今やりたいと思っていることが、まさにgBizIDの活用なんです。せっかく運用が始まったのだからぜひ生かそうということで、今回、「さかしる」の実装にもgBizID を使いました。ログインすると 簡単に法人番号が伝わるので、とても便利だなと思って。ただ、gBizIDは今は行政サービスにしか使えないのですが、私がやりたいのは民間の企業間取引のデジタル化なんです。ちょうど今年から電子帳簿保存法が制定されて見積書や発注書などの取引書類をすべてデータ管理しなければならなくなりました。そこで、デジタル庁が最近スタートさせた新型コロナワクチン接種証明書アプリのように、きちんとデータで出して電子署名して、検証可能な状態にしようと。そのことで、企業はお互いに改ざん不可能な信頼性の高い電子データを扱えるので、そこにgBizIDを使った新サービスを企画しているところです。

国の役割と民間の役割、それぞれが機能し連携していく時代

二見:そうした新しい仕組みをつくりあげていく場合、現状の体制やシステムをいかに調整、改善していくかが重要になりますね。デジタル化になかなか対応できず、取りこぼされてしまう小さな企業や組織が生じるなど、対策が必要な問題も浮上するでしょう。たとえばデジタル庁が電子申請や印鑑レスを進めても、変わらず市役所の窓口まで紙書類を持っていくとか……。そういう取りこぼしを無くしていくのは、思う以上に難しい。

福野:そうですね。短期的にはデジタル申請すればキャッシュバックがあるなど、デジタル化を進めることへの「お得感」を出していけば良いのではと思います。

二見:あるいは、紙のデータをスキャンすればデジタル化できるという作業を簡素化するアプリをつくってしまうという手も考えられますね。

福野:そういうアプリの開発や、デジタル対応できない人のために入力代行する業務は、基本的には民間に任せるほうが良いと私は思っているんです。行政はあくまでもシンプルに枠組みをつくり、細やかな調整業務やサポートを民間事業者が担うといったように、役割分担と緊密な連携を図る時代になったのだと思います。そのひとつの形が、東京都がスタートさせた「Tokyo OSS Party」。これは、都政と市民・民間・NPOなど多様なプレイヤーがオープンな共創を進めていく取り組みなんですが、開発したソフトのソースコードをオープンにすることで他の地方自治体でも利活用できたり、オープンソースだから誰もが自由にシステムづくりに参加することができるんです。何より一番大きいのは、来年度からプログラミングが必須科目になる高校生にもチャンスがあるということ。実は、この取り組みを福井でも展開して、“こどもシビックテック”を流行らせようとしているんです(笑)。

問題解決スキルを身に付けた新たな人材が、未来を切り拓いていく

二見:福野さんご自身も、子供向けのプログラミング教育ツール『IchigoJam』の開発や、プログラミング教室の展開など、次代に向けた人材育成に長年取り組んでおられますね。“こどもシビックテック”もそうした活動の一環なんでしょうか。

子供向けのプログラミング教育ツール『IchigoJam』を活用して 2019年度から鯖江市内の全小学校でプログラミング教育が行われている

子供向けのプログラミング教育ツール『IchigoJam』を活用して
2019年度から鯖江市内の全小学校でプログラミング教育が行われている

福野:そうですね。今ちょうど総務省が手掛ける「地域ICTクラブ事業」に関わっているのですが、この活動は子供たちが地域のなかでプログラミングなどICT活用スキルを学ぶ場を、授業だけでなく課外でもつくっていこうというものです。
もともと『IchigoJam』をつくったのも、私が小学校3年生の時に初めてパソコンを買ってもらい、自分でゲームをつくることができるんだ!と知った感動を、今の子供たちにも伝えたかったからです。。「プログラミングってすごい!」「楽しい!」など、新しい発見を得るきっかけを授業や『IchigoJam』がつくり、「地域ICTクラブ」でしっかりとした学びにつなげていく。自ら学ぶチカラを身に付けていく場とチャンスを、子供たちのためにつくりあげていこうというのが狙いなんです。

二見:学ぶ学生たちの年齢こそ違いますが、KICが目指すのも同じ。「探究実践」という独自のフレームワークで、人から与えられた課題ではなく、自ら課題を見出し解決していくスキルの習得をめざします。そのなかには、“誰か一人でもいい、人が幸せになることをICTを使ってつくっていこう”という想いが込められています。

福野:世の中はそう簡単に変わらないからこそ、変えていく仲間をつくることが重要。これから、プログラミングを学んでいく新しい人材が増え、一人でも二人でも「一日一創」のマインドで何かをつくり始めれば、世の中は大きく変わっていくと思うんです。

新型コロナウイルス対策ダッシュボード

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二見:裾野からの小さな実践の積み重ね、作り手一人ひとりのチカラの結集が、大きな山を動かしていくというイメージですね。

福野:これから目指すべきは、オープンデータによる日本国内の社会の課題解決や経済の活性化はもちろん、世界を視野に入れた展開です。その動きを加速させていく刺激とアイデアを、これからも発信していきます。

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