アフリカ国際会議(TICAD)を神戸で!イベントで繋ぐアフリカと日本の未来

Innovator

日本主導でスタートした、アフリカ開発会議「TICAD」とは

去る2022年8月27日~28日、北アフリカに位置するチュニジアで、第8回アフリカ開発会議「TICAD 8」が開催された。TICADとは、Tokyo International Conference on African Developmentの略であり、その名の通り、アフリカ諸国とともにアフリカの現状と課題、開発の方向性を話し合う国際会議だ。1993年に日本政府の主導によって東京でスタートし、以降、国連、国連開発計画(UNDP)、世界銀行、アフリカ連合委員会(AUC)との共同で定期的に開催。その会場は東京を皮切りに、横浜、カメルーン、ケニア、横浜と移り変わり、第8回目となった今回はチュニジアに決定。そして次回、2025年に行われる第9回TICADは、現時点で開催地は未定だが、日本国内での開催の可能性がある。

そうした流れを受け、先ごろ、神戸でのTICAD開催を呼びかける署名活動が行われ、わずか2ヶ月間で約4,000人の署名を集めるほど大きな反響を得た。その署名活動の実行委員を務めたのが、神戸情報大学院大学(KIC)で建築・都市計画の教授で、アフリカの文化交流イベントを主催する「アフリカミーツ関西」の代表、ルクムエナ・センダ氏だ。

今回、センダ氏をお迎えし、神戸開催を呼びかける理由や署名活動に込めた想い、そして、アフリカ・日本の両国の未来についてお話を伺った。

時代の動きとともに変わってきた、アフリカと日本の関係性

まず、私が皆さんに知っていただきたいのは、TICADが世界で初めて、一つの国家がアフリカ全体の課題解決に乗り出した画期的な取り組みであり、それを行ったのが日本だということです。80年代後半にはすでに構想があり、ようやく実現したのが1993年。後に国連や世界銀行など世界的機関がパートナーに加わり、国際社会のなかで注目を集める大きなイベントに発展していきました。

TICADが誕生した当初はアフリカ経済が低迷していた時期でもあり、主な議題は貧困・不安定の解決でした。その時の日本とアフリカの関係といえば、日本がアフリカを支援するという言わば“一方通行の関係”だったと思いますね。

それが変わり始めたのが2003年頃から。アフリカの急成長を背景に、日本にとって「手助けをする国」ではなく「パートナーシップを結ぶべき国」へと徐々に変遷。議論の性質はもちろん、両国の関係も、一方通行から双方向へと大きく変化していきました。

日本はもちろん、今や世界からパートナーとしての期待が集まるアフリカですが、その大きな要因のひとつが「人口」です。2021年のアフリカ全体の総人口は13.4億人。その半数以上が25歳以下の若年層なのです。市場としての将来性を考えるうえで、このポイントは非常に大きいと言えるでしょう。

そしてもうひとつが「資源」。多くの方がご存じのように、アフリカはレアアースをはじめ最先端技術に必要なあらゆる資源を保有しているのです。

この2点をみるだけでもアフリカの持つポテンシャルは非常に大きく、今後、TICADが果たす役割もますます重要なものになるでしょう。

イベントを通じて日本とアフリカの理解と交流を図ってきた私たちにとっても、TICADで切り拓く未来には期待感でいっぱいです。それだけに、より意義のあるものにしていきたいという強い想いがあります。

署名活動を通して多くの人と触れあうことで、理解と共感の輪が広がる

今回、2025年に予定されている日本でのTICAD開催について、「ぜひ神戸で!」と思い立ったのも、そうした背景があるからです。日本国で開催する場合はこれまで東京か横浜でしたが、次回の具体的な開催地については未定。もし、日本で開催するならば、神戸を中心に日本で最大級のアフリカ文化交流イベントを手掛けてきた「アフリカミーツ関西」にとって大きなチャンスです。そこで、神戸の地でこれまでアフリカ32ヶ国から140名以上の留学生(JICA短期課題別研修を含むと35ヶ国から200名以上)が学んできたKICとタッグを組み、2022年5月から署名活動をスタートさせました。

2022年5月8日にJR三ノ宮駅前で署名を呼び掛けるセンダ氏

何か大きく物事を動かそうとする時に、大切なのはより広い裾野に働きかけ市民の理解と共感を得ること。その効果をもとに、より大きな組織からのバックアップにつなげていくことです。高いレベルで国や行政が動いても、そこだけで情報交換や活動が止まってしまっていては、先に進むことは困難だからです。じゃあ、どういう風に広く市民に働きかけていくのかというと、その方法は唯一、多くの市民とフィジカルに交流できるイベントだと私たちは考えているのです。

今回の署名活動は、まさに広く情報を伝えていくための重要なイベントという位置づけであり、署名活動を通してたくさんの人々と触れあい対話することで、互いの理解と共感をより深めることができたと感じます。何より、直接顔を合わせることで対話が生まれますし、血の通った生の声を聞ける貴重なチャンス。「神戸を盛り上げて欲しい」「神戸が日本をアフリカとつなげる架け橋になればいい」「互いが共栄する未来を願っています」といった温かなコメントも多数集まり、ネット時代の今だからこそ、人と人が向き合いつながっていくことの大切さを、改めて学んだ気がします。

なぜ「神戸」なのか。関西のポテンシャルと25年大阪・関西万博

ではなぜ「神戸」なのか。そこにはいろんな理由を挙げることができますね。

たとえばアフリカには、世界で最も古い国家と称されるエチオピアがありますが、日本でも古い歴史を持つ都は京都をはじめ関西に点在しています。その長い歴史にはアフリカと相容れる豊かな伝統があり、文化的にとても豊かで多様性もあります。さらに、GDPも世界17位のオランダに次ぐ規模を誇ります(※近畿経済産業局調べ)。この魅力あふれるエリアを、ぜひアフリカ諸国に知ってもらいたい――それが、「アフリカミーツ関西」を立ち上げた想いでもありました。

異なる国が協力し合いより豊かな経済発展を図っていくためには、相手国の文化への理解が不可欠です。それで、イベントという文化活動を発信していくことで、ビジネスの基盤を築き上げていくことが可能になります。

そして、次回TICADが行われるのは、大阪・関西万博が開催される2025年。この絶好のタイミングに神戸でTICADを開催することができれば、関西全域を巻き込んで、地域全体を活性化させ世界に広く知らしめる起爆剤になるでしょう。

実は関西というエリアは、大阪や神戸、京都など、それぞれに魅力もポテンシャルも十分にあるのに、どうしてかそれぞれがバラバラというか……。互いの情報も十分に行き届いていない感じがして、以前からとても残念に思っていたんです。たとえば、神戸がユネスコに認定されたデザイン都市であることも、きっと関西内でも知らない人のほうが多いと思いますね。なぜそういうことが起こっているかと言えば、互いを知り交流するようなイベントが圧倒的に少ないからだと思いますね。

アフリカという広大なエリアを見る時も、私たちはよく「点ではなく面で物事を見よ」と言います。一国だけでは見えてこなかった課題や問題、あるいは秘めたポテンシャルが、エリア全体を面で捉えると見えてくる。関西も同じ。大阪・関西万博を単に点で捉えるのではなく面での展開を図ることができれば、互いに連携し合い、新しい価値を生み出せるのではないでしょうか。

関西で感じた伝統と文化、そして心の距離の近さ

そもそも、私が日本に来るきっかけとなったのは、フランスで建築を学んでいたときに見た一枚の写真でした。それは、伝統的な京都の町家を写した写真で、柔らかな光と優しい空間、自然を大切にした心地よさに、一気に惹き込まれたのを覚えています。その後、実際に京都に来て町家に足を踏み入れたとき、これだ!と確信。そして、日本に移住し関西で暮らしていくうちに、どんどんアフリカとの“近さ”を感じていきました。

伝統的な京都の町家の風景に惹かれた(イメージ写真)

1990年大阪大学大学院在学時代の写真

そのひとつが、大阪・谷町の道路の真ん中にそびえる大きなクスノキです。通常、都市づくりに際して、こうした樹木は伐採されますよね。実は、コンゴにも同じように、ビルの敷地内に祀られるように残されている木があるのです。その樹木には神が宿っているという考えなのですが、こんな離れた場所で同じような光景を見られるとは思わなくて。驚きとともに嬉しい気持ちになりましたね。そのほか、土地に建築物を建てる際に行われる地鎮祭などもアフリカには非常に似通った儀式があり、そんな共通点を見つけるたびに、ますます日本を身近に感じられるようになりました。

こうした精神性というか伝統文化は、欧米ではなかなか見られないもの。だからこそ、アフリカが将来パートナーシップを組むべきなのは日本であり、両国が連携することで生みだされるポテンシャルは非常に大きいと思いますね。

もちろん、文化的な結びつき以外でも、日本には優れた技術があるが資源が乏しく、アフリカには豊富な資源があるが技術を求めているという、互いに補える部分が一致する点も注目すべきところです。

そうした両国の将来性を、もっともっと多くの人に知っていただくためにも、イベントを通じた交流が不可欠です。物理的な距離は変えられませんが、心の距離はいくらでも近づけていけるはずだからです。

これからの時代を築く新しい世代を育み、豊かな未来へつなげたい

「アフリカミーツ関西」で展開しているイベントでは、ファッションをひとつの軸にしてアフリカ文化を発信し新たな交流の場を提案しています。2022年は9月16日~18日の3日間、神戸ハーバーランドで開催予定でしたが、台風の影響により2日目と3日目は中止となりました。それでも初日のオープニングセレモニーを開催することができ、これまでのコロナ禍ではオンラインでの開催でしたが、今年は3年ぶりにリアルで開催することができ、ルラマ・スマッツ・ンゴニャマ 南アフリカ共和国大使館特命全権大使、エスペマータン・カポンゴ・カポンゴ コンゴ民主共和国大使館臨時代理大使、姫野勉 外務省政府代表特命全権大使、齊藤元彦 兵庫県知事、久元喜造 神戸市長をはじめ、多くのご来賓、来場の皆さまにご参加いただくなど、盛大に開催することができました。

オープニング当日は晴天に恵まれました

また、2019年より新たな取り組みをスタートさせました。それが、東京にあるAfrica 4.0 Foundationと共催した、「Africa子どもサミット」です。大阪で開催されたG20大阪サミット2019の首脳会合に合わせ、中之島公会堂を舞台にアフリカと日本の子どもたちが集まり、未来について語り合うというものでしたが、自由かつ活発に意見を出し合う様子は大人顔負けでした。

中之島公会堂を舞台に自由かつ活発に意見を出し合う子どもたち

その時、12~15歳だった子どもたちは、2025年には18~21歳。成長した彼らが万博やTICADを機に再び出逢えると考えると、ますます期待が膨らみますし、互いを理解し心の距離を縮めた若い人材がこれからどんどん育っていけば、私たちの未来はもっと豊かなものになっていくでしょう。

私が教授を務めるKICも、未来を担う人材を育てる場所です。現在もアフリカからたくさんの留学生が来日し学んでいるのですが、そんな彼らにつねに伝えているのは「学ぶだけでなく、あなたが知っていることを周囲に教えなさい」ということ。日本で得る知識をただ身に付けるだけでなく、他の留学生や日本人が知らないアフリカのことを伝えれば、双方向のより意義のある学びになると。それは、日本の若者が海外で学ぶときも同様。互いに知らない文化や伝統を教え合うことで、お互いに知識と視野が広がります。そこに、新たな価値をつくる力が生まれてくるはずです。

TICADや大阪・関西万博開催は、そんなより深い交流と学びを得る大きなチャンス。ぜひ神戸での開催を実現して、アフリカと日本のより良い未来につなげていきたいですね。

profile

Lukumwena Nsenda

ルクムエナ センダ

コンゴ民主共和国出身。1984年に留学生として来日し、1991年大阪大学大学院 博士号取得。アフリカ・米国・ヨーロッパ・日本で建築・都市計画を研究し、学会でも数多く発表。建築科、シティプランナーとしての経歴を経る。現在、「アフリカミーツ関西実行委員会」代表として、数々のアフリカ交流イベント開催するかたわら、神戸情報大学院大学(KIC)では主な研究テーマとしてICT4D for smart Delivery を使用した都市部および都市周辺地域の空間物理配置の読み取り、分析、解釈を掲げ、アフリカからの留学生を指導。そのほか、NPO法人GA理事長(コンゴ民主共和国)、NPO法人AFRIKCLEAN理事長を務めるなど、幅広い分野で活躍中。

する『知識』を発信する
Webマガジン