サスティナブルな未来のための社会課題解決をテーマにする国内外のスタートアップが神戸に集結した「環サミット(Meguru Summit)」

環サミット(Meguru Summit)

持続可能性をテーマに新たなビジネスを立ち上げるスタートアップが世界から次々と生まれるなか、革新的なアイディアやテクノロジーを持つスタートアップ・エコシステムのステークホルダーが国内外から神戸に集結し、循環型経済や持続可能性をテーマに議論・交流するグローバルカンファレンス「環サミット(Meguru Summit)」が神戸で開催された。

2日間にわたるプログラムでは、クライメイトテック(気候テック)、フードテック、SDGsの3つをキーワードに、スタートアップピッチ、基調講演、パネルセッション、展示会、そして交流会が行われ、情報共有やビジネスパートナーを見つける機会にもつながった本イベントはどのようにして開催されたのか。今回、KICの内藤智之副学長が、主催者である兵庫県産業労働部新産業課の高橋桐子氏と神戸市新産業創造課イノベーション専門官の福田志織氏、2人のイノベータ―に話を伺った。

グローバルなスタートアップが集まる3つのデモデイを2日間で開催

内藤:サスティナビリティをテーマにしたスタートアップ関連のイベントは世界でいろいろ開催されていますが、日本では主に東京で開催されているような印象があります。今回、なぜ神戸を舞台にグローバルイベントが開催されたのか、とても興味があります。

神戸市新産業創造課イノベーション専門官 福田志織氏

福田:環サミットは神戸のKIITOを会場に2月2日と3日の2日間、兵庫県と神戸市が主催(一部のプログラムは兵庫県・神戸市・JETROが主催)する形で開催しました。もともとは兵庫県と神戸市が共同で取り組んでいる事業として、国内から海外に進出するスタートアップを応援する「SDGsチャレンジ」<https://sdgs-challenge.jp/>、世界的な気候変動の問題を解決するため、CO2排出量の削減や地球温暖化の影響への対策を講じる革新的なテクノロジーを有する海外のクライメイトテックを日本や神戸に誘致する「Climate Tech Challenge」<https://climatetech-challenge.com/>と兵庫県・神戸市とJETROが取り組んでいる食における問題解決や食の新たな可能性の拡充などを目指す海外フードテック企業とのビジネスマッチング事業「THE NEXT KITCHEN 2024」の3事業に参加するスタートアップの発表会を合同でやりましょうということでスタートしました。

兵庫県産業労働部新産業課 高橋桐子氏

高橋:スタートアップの皆さんは投資家や事業者、企業の方たちとのつながりを強く求めていらっしゃるので、ただデモンストレーションをしていただくというよりはいろいろな方に来ていただいて、つながりを作ることを目的にしようと考えました。また、クライメイトテックやフードテックはグローバルでどういうトレンドがあるのかというのを基調講演やパネルディスカッションで紹介したり、登壇するスタートアップの方々に小さなブースを出展したりして、一つのサミットに仕立て上げたということになります。

高橋:1日目は前半にクライメイトテック、後半にフードテックをテーマにしたプログラムを実施して、交流会では食品の試食なども行いました。2日目のSDGsチャレンジは毎年デモンストレーションデイを一般の方や学生さんやたちに幅広く公開しているので、一般の方が参加しやすい土曜日に開催しました。

内藤:1日目はグローバルな動きを知ってもらうということで海外からの参加者が多かったようですが、どのように募集されたのでしょうか。また、スタートアップも起業直後の段階だったり、株式市場に上場前だったりもしくは上場していたり、いろいろな段階のスタートアップがありますが、どのような段階のスタートアップが対象だったのかも気になります。

福田:各事業の公募とあわせて我々もヨーロッパやカナダを回りましたが、スタートアップを直接探しに行くというよりは、我々のような行政機関を含めたスタートアップ支援機関や投資会社であるVC(ベンチャーキャピタル)、スタートアップ企業のビジネス拡大に短期的な支援をする組織のアクセラレーター組織とネットワークをつくり、彼らと連携して各事業に合う海外スタートアップを探すという形で動きました。海外の支援機関も日本の都市との連携をかなり重視しているので、彼らが支援するスタートアップに私達の事業の公募情報を流してもらったり、有力なスタートアップを直接紹介したり、推薦してもらうことができました。

福田:スピーカーとして登壇された有識者の方たちはこのMeguru Summitのために招待していますが、それ以外のスタートアップはそれぞれの事業で、書類選考などを通じて選出されています。多くはアーリーフェーズのスタートアップでしたが、すでに何らかの投資を受けていたり、いくつかの国で拠点を持っているところもありました。ただ、デモンストレーションだけではなく、日本の企業との1on1マッチングや神戸のいろんな関係機関を訪問したり製造業や工場見学ツアーなどもセットにしたりすることで、その中でもレベルの高いスタートアップの方たちに来ていただけたと思います。

なぜクライメイトテックとフードテックをテーマにしたのか

内藤:様々な地球規模課題や社会課題がある中で、テクノロジーを使ってそれらを解決していこうという話は世の中に多くあると思いますが、なぜクライメイトテックとフードテックにフォーカスされたのですか?

福田:クライメイトテックに関しては、国の方針としても、兵庫県・神戸市としても2050年までにカーボンニュートラルを目指すという目標を掲げており、その課題解決につながる技術を持つ海外スタートアップと、県内および国内企業が協業して解決する方法を促進していきたいと考えています。我々は技術的な専門家ではないので、細かいところまで技術評価ができるわけではないのですが、だからこそ、海外クライメットテックとの協業に関心のある国内企業の方にMeguru Summitに来ていただき、会場で実際にスタートアップと話していただくことで、各企業にスタートアップの強みや連携可能性を見出していただけるよう支援しました。また、脱炭素に関しては民間企業だけではなく行政の取組も大変重要ですので、海外スタートアップと県や市の各部局とのマッチングも行っています。

ドイツの「ConcR」

福田:フードテックは、クライメイトテックよりも神戸ならではの独自色があると思っています。兵庫・神戸の主要産業の一つが食産業というのもありますが、一方で国内マーケットは小さくなり、ヴィーガンやハラル、アレルギーなど対応すべき課題は多様化しています。環境問題の観点でも、製造過程において環境負荷のある産業なので課題は大きく、持続可能性の観点でフードロスや漁獲量減少、動物愛護といった問題をテクノロジーやアイディアを使って解決しようとフードテックを目指すスタートアップが増えています。もちろん海外スタートアップが神戸に根付いてくれるとうれしいのですが、一足飛びに神戸誘致だけを目指すというよりは、まずは相互交流機会を提供することで、県内企業のイノベーションの促進につなげようとしています。

シンガポールの「uHoo Pte」

内藤:1日目はそれぞれのテーマで7社ずつ、各3分間のピッチが行われていましたが、どのような企業が登壇されていましたか?

福田:フードテックは「THE NEXT KITCHEN 2024」で選出された5社と、国内から2社が登壇しました。動物性原料不使用の製菓・製パンに適したヴィーガンバターを製造するオランダの「Be Better My Friend」<https://bebettermyfriend.com>や、米タンパク質や植物性食品をベースにした刺身を製造して海洋資源の保全を目指すルーマニアの「Bluana Foods」<https://bluana.me>のような、日本では市場を獲得するのが簡単ではないヴィーガン食品を製造するところもありましたが、アレルギーの子どもがみんなと同じケーキを食べられるとか、コストも安くて体にも良く、美味しいものが食べられるという意味で、日本の食にも合う製品になればすごく魅力的になると思っています。実際にこの2社の製品は北野ホテルの総料理長にご協力いただき、ヴィーガンのフルコースを作ってフィードバックをいただいたりもしました。

オランダの「Be Better My Friend」

ルーマニアの「Bluana Foods」

内藤:2日目のSDGチャレンジで、特に印象に残ったスタートアップは、どのようなところですか?

福田:今年度は全部で17社が登壇しましたが、ユニークなところでは寺院の森で自然との循環を促す循環葬という新たな埋葬法を実現しようとしている「at FOREST」<https://returntonature.jp>、食品の残渣で染色や廃棄素材の再活用をする「ソーイング竹内」<https://www.sewing-takeuchi.co.jp>、醤油の絞りカスとチョコレートを混ぜて新しいチョコレートを作る「Maison KasuYa」<https://kasuya.maison>などが登壇しました。

「Maison KasuYa」

福田:また、広い意味での環境問題や脱炭素への取り組みが多く、捨てられるものに新たな価値を与えて再生するアップサイクルや女性特有の健康課題をテクノロジーで解決を目指すフェムテック、すべての人々が利用しやすい製品、サービス、空間のデザインのユニバーサルデザインの衣料など、こちらで意図したわけではないのですが、全体として扱うテーマは幅広かったと思います。

年間を通じて様々な形で支援を提供

内藤:グローバルイベントということで海外からの参加者も多かったと聞いています。初日はステージのピッチもすべて英語でしたが、同時通訳などは入れずに、音声からリアルタイムで翻訳したテキストをディスプレイに表示して、発表後に日本語で補足解説をするという、なかなかユニークなピッチ・スタイルだったとお聞きしています。

福田:ピッチは各持ち時間が3分と短く、登壇者の中には英語が母国語ではない方たちもいらっしゃったので、同時通訳レシーバーを使ったとしても技術やしくみをすべて説明するのは難しいと考え、発表後に日本語で要約をお伝えするというスタイルにしました。文字でのリアルタイム翻訳は参考になればというぐらいで考えていたのですが、意外に精度が高く、それなりに役に立ったようです。いずれにしても、ピッチはブースで交流してもらうきっかけにするのが目的でしたので、テンポよく要点を伝える方法として今回のような形になりました。

内藤:一般論として、グローバルイベントでは多言語間のコミュニケーションをどうするのかが常に課題なので、リアルタイム翻訳やこれからはAI通訳も使う機会が増えるかもしれませんね。ちなみに日本側からはどのような参加者が集まりましたか?

高橋:大手企業や事業会社をはじめ、VCや金融機関の方や東京から来ていただいた方もいて、2日間でのべ400人に参加していただきました。参加された方からは、「資料で見るよりいいところがたくさん登壇していたね」との感想をいただいており、やはりリアルで当事者から事業内容を直接説明してもらうのは情報量も違うとあらためて感じました。

内藤:クライメイトテックにしてもフードテックにしても、海外のスタートアップは日本の市場に興味はあるのでしょうか?

福田:フードテックに関しては、販路を持っている企業との共同開発や共同販売に非常に興味を持たれていて、事業としては先日2年目が終わったところですが、1年目に参加された2社はある企業のサービスとつながりができていますし、今年度参加した1社はもう取引が決まっているといった動きも出てきています。クライメイトテックは非常にお金がかかるので、特にいい技術を持った方々がテクノロジーを量産化させるとか大規模実証をする時に日本の大企業と組みたいと考え、積極的に日本を見てらっしゃることが多いです。ただし、いち早く協業を実現していくには日本側のスピード感にまだ課題があると思っています。

内藤:クライメイトテックに関して言えば、せっかく神戸市みたいな100万人が住む大きな街があって、山もあれば海もあれば港もある都市と、さらに兵庫県全体で見ると数万人レベルの小規模都市もあるというコントラストがある中で、社会課題をテクノロジーで解決するということを考えるには最適な環境のひとつだと考えています。私たち教育機関としても、何かの役に立ちたいと思っている学生は毎年一定数いるので、そういうところで短期的にも長期的に貢献できるのかは最大の関心でもあります。

福田:アイディアをビジネスで形にしたい、新しいビジネスを通じて社会課題を解決したいと考えている起業家の皆さんに対して、県と市では、今回のMeguru Summitで連携した3事業以外にも、各種補助金や「ひょうご・神戸スタートアップファンド」を通じた資金面でのご支援、スタートアップと行政や県内企業とのオープンイノベーションの促進など、様々な支援施策を行っていますし、これらについていつでも私達が相談を受け付けています。社会課題解決に取り組むスタートアップの支援を通じて、みなさんの生活が少しでも良くなるよう、引き続き努力していきたいと考えています。

高橋:持続可能性をテーマに世界で活躍できるスタートアップへの支援は今後も継続していきますので、興味があれば県にも是非躊躇されずにお問い合わせしてほしいですし、ぜひたくさんの方にチャレンジをしていただきたいですね。

東京ではないからこそ見える社会課題があり、世界のスタートアップと共にその社会課題をテクノロジーで解決するということができる環境が、ここにはある。スタートアップを目指すこれからのイノベータたちは、兵庫県、神戸市の起業環境に改めて注目してはいかがだろうか。

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