リアル社会へも応用されるゲームAIの研究とは 〜特別セミナー「スクウェア・エニックスのAI」〜

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40年以上続くゲームとAIの関係をチームで解説

ゲーム開発に不可欠な”ゲームAI”について、ファイナルファンタジーやドラゴンクエストを手掛けるスクウェア・エニックス(以下、スクエニ)でAI開発に携わるメンバーたちがわかりやすく解説した著書「スクウェア・エニックスのAI」(出版元:ボーンデジタル、2024年)の出版を記念した特別セミナーが2024年12月に神戸情報大学院大学(KIC)で開催された。講師の三宅 陽一郎氏は2011年の入社から、AIスペシャリストとして数々の作品製作に関わり、執筆を手掛けた著者たちが当時所属していたAI部のジェネラル・マネージャーも務めていた。現在の肩書きは、同社のリードAIリサーチャーで、業界内ではゲームAI研究の第一人者として知られる。

三宅氏がAIに興味を持ったのは京都大学で数学を専攻していた頃で、当時話題になっていたゲームの開発に使われていたことで、自然と興味を持つようになったと言う。2004年からデジタルゲームにおける人工知能の開発と研究に従事するようになり、黎明期から独自に開発もしながらゲームAI技術の体系化と発展を推進している。国内外の学会や産業カンファレンスでは、人工知能をテーマにした講演や発表を数多く行っている。

三宅氏は2016年頃からゲームAIと人工知能に関する著書を出版しているが、「スクウェア・エニックスのAI」を執筆した理由として、ゲームとAIは40年以上つながりがあり、研究分野としては2000年頃から急速に発展したが、ゲームAIというテーマでまとまった情報が少なく、体系的に学ぶ方法が少なかったことを挙げる。業界では当たり前に使われているにも関わらず、その重要性があまり認識されていないゲームAIについて「できるだけ多くの人に知ってもらいたい」という思いから、各章の前半は「誰にでもわかる」ことを目指し、後半は読み応えのある「専門性の高い内容」となっている。

本書はAmazonほか全国の書店で購入できるため、ぜひ手に取っていただきたい。

「メタAI」がゲームを味わい深いものにする

特別セミナーでは「スクウェア・エニックスのAI」の内容をもとに、ゲームAIについて解説された。

ゲームAIを構成する要素は歴史的に見て、キャラクターAI、空間AI(スパーシャルAI・空間知能)、メタAIの3つがある。キャラクターAIと空間AIはその名のとおり、キャラクターや空間を管理し、コントロールする役割を果たす。メタAIは、ゲーム全体を俯瞰的な視点から見てシステムをコントロールする重要な役割を果たす。最新のゲーム開発では、クオリティを引き上げるために欠かせないものであり、セミナーではさらに詳しく解説された。

ゲームAIの構成要素

三宅氏:メタAIの歴史は古く、80年代頃からゲームプレイの緩急を調整するのに使われてきました。有名な『パックマン』(株式会社バンダイナムコエンターテインメント,1980)にも使われており、ゲームに独自のリズムを生み出すアルゴリズムが大ヒットにつながったのです。一方で、ゲームセンターでゲームをやり込んでいる人と全くやったことがない人の差が激しくなり、ユーザーのスキルにあわせて難易度を調整するといった、ゲーム開発でどうしても埋まらない『かゆいところ』を補完するためにAIが使われるようになります。

例えば、最近主流になっているオープンワールドのゲームは昔のRPGとは違い、空間が大きく広がっています。それはいいことなのですが、一方でゲームデザインとしてはゲームをプレイするリズムが作りにくくなっている。データのサイズも大きいので作り込みが難しく、様々な要素を調整するのにメタAIが必要とされているのです。

また、メタAIは「ゲーム内のシーンを味わい深いものにする」ためにも使われる。シチュエーションにあわせて地形を解析しながら経路を予測して敵キャラクターが待ち伏せるようにしたり、敵の配置や行動パターンなどをコントロールしたり、他にもゲームマップやユーザーのレベルに応じたダンジョンを作ることもできる。

AIにゲームを作らせる動きが加速

ゲームAIで活用が進んでいるのが、ニューラルネットワークを応用したディープラーニングだ。中でも、PCGRL(Procedural Content Generation via Reinforcement Learning)と呼ばれる強化学習をゲーム開発に応用しようという動きがある。

三宅氏:強化学習はトライアンドエラーでAIを学習させる方法で、格闘ゲームなどに使われています。AIにゲームをさせると最初は下手なのですが、上手くよけたら褒めるといったことをくり返していくと、15分くらいで避けるのが上手くなります。さらに強化学習を使うと定義するのが難しい挙動をAIが学習するようになり、さらに上手くなります。

2015年には、Google傘下のAI研究開発企業であるDeepMind社が、深層強化学習(Deep Q-Learning=DQN)を取り入れて開発した囲碁ソフト「AlphaGo(アルファ碁)」を開発し、世界王者との対戦に勝利したことをきっかけに、いろいろな企業がゲームAIの研究に取り組みはじめるようになった(表1)。

表1:デジタルゲームを用いた強化学習の開発リスト(三宅氏提供)

人の手を介さずAIにゲームを作らせるという研究もすでに始まっている。

三宅氏:まず行われたのが、70年代に作られたアタリ社のゲームをAIプレイさせるというものでした。いずれもドット絵でプレイも単純なので、最初に選ばれた6つのゲームは比較的短期間で学習できましたが、次の57個は一部でだいぶ時間がかかってしまった。これはDeepMind社の『Agent57』という結果として公開されていますが、70年代のゲームでこうですから、今の3DゲームをAIで上手くプレイできるよう学習させるのはなかなか大変だというのがわかったのです。

とはいえ、AIは考えるスピードが速いので、時にはゲームデザインを作りだせることもある。「Yavalath(ヤバラース)」というボードゲームは、複数のボードゲームデザインを組み合わせて改良する遺伝的プログラミング(図2)という手法で作られ、AIが作ったゲームとして販売されている。

図2. 遺伝的プログラミングによるゲームデザイン(三宅氏提供)(Cameron Browne,“Evolutionary Game Design”, SpringerBriefs in Computer Science, 2011)

応用範囲が広がるゲームAIを学びの選択肢に入れてほしい

ゲームAIの研究開発が進むにつれ、ゲーム以外でも活用しようという動きも出てきた。人気ゲームの「マインクラフト」(Microsoft)は研究用の環境として『Project Malmo』を提供しており、現実社会をシミュレーションする実験などに使われている。他にもさまざまな応用が考えられ、三宅氏はその一つに、ロボットやエージェントにゲームAIが応用できるのではないかと見ている。

こうした、さまざまな可能性を持つゲームAIについて、「一般の人にはゲームAIを知ってもらうことでゲームの楽しみ方を増やしてもらいたい。ゲーム開発者にはあらためてゲームAIという手法の広がりに気づいてもらいたい」と話す。

三宅氏:最近のAIブームでゲームAIに興味を持つ学生さんも増えていると思いますが、研究分野としてゲームAIという分野があると認知してもらい、できれば大学2年生ぐらいで専門分野の選択肢に入れてほしいですね。『スクウェア・エニックスのAI』はそうした時の指針になる本ですし、何よりもゲーム産業に興味を持つきっかけにもなるでしょう。実際にゲーム産業の中にはたくさんのチャンスが生まれています。もし学生のうちにやってみようというのであれば、簡単なゲームの中でAIをちょっと試してみたり、社会課題解決にAIを使ってみました、ということを自分のサイトや動画で発表したり、論文にするのがよいと思います。

セミナー後の参加者アンケートでは「AIというものはゲームであろうが、ロボットであろうが、これから発展の部分で大きな役割を担っていると感じました」というコメントもあり、ゲームAIを通じてAIについて理解を深めてもらうことができたと言えそうだ。三宅氏も「AI全般についてもっと研究し続け、一緒に取り組む人たちを応援したいていきたいと」話しており、これからもいろいろ新しい発見や活動を発表してくれることに期待したい。

profile

三宅 陽一郎

Yoichiro Miyake

株式会社スクウェア・エニックス リードAIリサーチャー
京都大学で数学を専攻、大阪大学(物理学修士)、東京大学工学系研究科博士課程を経て博士(工学、東京大学)。2004年よりデジタルゲームにおける人工知能の開発・研究に従事。著書に『人工知能の作り方』『ゲームAI技術入門』『戦略ゲームAI解体新書』、共著に『FINAL FANTASY XVの人工知能』『ゲーム情報学概論』など多数。『大規模デジタルゲームにおける人工知能の一般的体系と実装 -FINAL FANTASY XVの実例を基に-』にて2020年度人工知能学会論文賞を受賞。

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