2025年8月20日~22日の3日間、神奈川県横浜市で第9回アフリカ開発会議※1(TICAD9)が開催された。前回記事「TICAD9~日本とアフリカの人材交流のインパクト | KICK BRAIN」でレポートしたように、日本には架け橋役のアフリカ人材の活躍が増えている。では、そのような架け橋役はどういった分野で活躍しているのだろうか。今回は、TICAD9を通したアフリカとのビジネス交流に追っていく。

TICAD9期間中TICAD Business Expo & Conferenceが展示会場で開催された
※1アフリカ開発会議(TICAD)は、1993年から日本政府が主導して行ってきた「アフリカの開発」をテーマとした国際会議で、TICAD5までは5年おきに日本で開催してきた。2016年のTICAD6では初のアフリカ開催(開催地:ナイロビ)を果たし、それ以降は3年おきに日本とアフリカで交互に開催してきており、今回のTICAD9は6年ぶりの日本開催となる。
今回のTICAD9で感じたことは、これまでとは異なるアフリカとのビジネスに対する熱量だ。正直なところ、現状としてはアフリカへ進出している日本企業や人材は他国と比べればまだまだ少なく、むしろコロナ禍を経て減少すらしているかもしれない。ただ、アフリカ市場に参入している企業や人材群には変化があり、日本人によるアフリカビジネスの新たな勢いが生まれてきている。
独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)が主催した「TICAD Business Expo & Conference」の会場に入ってまず目にするのは、日本のアニメ/漫画、そしてゲームといったエンタメ関連のブースである。経団連が2024年に「Entertainment Contents ∞ 2024」を公表し、日本のエンターテイメント・コンテンツ産業は外貨を稼ぐ産業として期待を寄せており、アフリカ市場においても日本のエンタメに関する認知度は高く、可能性あふれる産業と言える。

Mr. Serge Dovi Avi Gnona氏(ABE修了生・KIC、コートジボワール)
先のイベントにも登壇したMr. Serge Dovi Avi Gnona氏(ABE修了生・KIC、コートジボワール)は日本のエンタメコンテンツについて、
Dovi氏「アフリカは既にさまざまな形で日本と繋がっていると思っています。
多くの日本人は知らないかもしれませんが、アフリカの若者は“オタク”が多い。『ドラゴンボール』の著者である鳥山明先生が亡くなった時、コートジボワールでも追悼イベントが開かれ、アフリカ各地で多くの人が喪に服しました。
また、日本のアニメ/漫画のコスプレも盛んです。このように日本のエンタメを通じて、アフリカの若者たちにアクセスができる状況です。
彼・彼女らは日本文化に情熱を持ち、アニメ/漫画を通じて日本語を学んでいる人も多いです。この現象を日本語教育や日本式ビジネスの理解促進にもっと活かすべきだと考えています。」
と、日本のエンタメをアフリカ諸国との関係強化に用いることを熱く語っているほどだ。
また、アフリカビジネスの勢いという点では、今回のTICAD9に合わせて日本企業・組織が締結したアフリカへの開発や協業に関する署名文書は324件にも上り、前回のTICAD8の92件を大きく上回り※JETRO | ビジネス短信参照、TICAD史上最大の数となった。その内容を見ると、今急速に発展をしている人工知能(AI)やIT人材の育成、産業として注目を浴びている宇宙ビジネス、アフリカ諸国が保有する鉱物資源関連、コロナ禍を経験し、より重要視されているヘルスケア分野など多岐にわたる。
例えば、衛星データ解析技術の開発および提供を行うスタートアップである株式会社Solafuneは、コンゴ民主共和国と資源開発における協力強化を目的とした基本合意書(MOU)を締結。同国は、スマートフォンや電気自動車(EV)に欠かせない鉱物資源を多く保有している国ではあるが、その資源管理や労働環境などにはまだまだ課題が多い。さらには、資源は歴史的に見ても、その他の問題に発展してしまう火種にもなり得てしまう。こうした課題を日本のスタートアップである同社が持つ、リモートセンシングやAI技術によって解決していくことを同国政府と合意できたのは、新たなアフリカビジネスの勢いを感じた1つだ。
AIの話題としては、日本政府もアフリカのAI人材育成に力を入れると発表。具体的には、日本のAI研究の第一人者でもある東京大学の松尾豊教授の研究室(松尾・岩澤研究室)とアフリカの20~30大学(例;ケニアのナイロビ大学、ウガンダのマケレレ大学など)が連携して、AI講座が開講される。製造、農業、流通分野でのDX実装へのスキルなどを重点的に学んでもらい、日本企業との人材交流も図っていく。そうすることで、日本企業のアフリカ市場への参入支援や、他国企業への人材流出も抑える狙いがある。
コーディング・ブートキャンプを運営している株式会社ダイビックによる、アフリカのメンバーと共に生成AIソリューションの開発を開始した点も興味深い。国内で日本人同士だけの仕事だとタスク管理やスケジュール感覚など、ビジネスにおける細かな点は暗黙的了解の上で進行するが、商習慣をはじめ文化背景などが違うアフリカでAIを活用し、タスクリストの出力やスケジュール管理に関するコミュニケーションを図り、問題解決に着手しているそうだ。
AIによるアウトプットは、AIを使う人間側の能力を超えてはこないと考えており、AIを使う人間のスキルを磨きながら、AIをいかに使いこなすかが重要だ。日本側とアフリカ側、両方のAI人材を育成し、同レベルでAIを使いこなす状況になることで、アフリカビジネスの障壁となっていた文化的な距離感の問題をAIで解決できると期待でき、ICT4D(デジタル技術と国際開発)の領域は、今後もますます注目されてくるはずだ。
TICAD9では、ABEイニシアティブ卒業生とのビジネスを行っている企業も多く見られた。
中でも日本のさまざまなビジネスをフランチャイズ化へのサポートを行う株式会社アセンティア・ホールディングスがサポートに入りながら、ABEイニシアティブ卒業生とアフリカで展開している株式会社ライフブリーズのコインランドリー事業がある。
2024年にモザンビークでコインランドリー事業をスタートした本ビジネスモデルは、日本の中古ランドリー機器をアフリカ現地にリースし、現地のオーナーがそのランドリー機器を使ってビジネスを行い、機器のレンタル料と売上の一定割合をロイヤリティとして日本側に支払うフランチャイズビジネスだ。
この事業は2022年にモザンビーク出身のABEイニシアティブ生から『ランドリー事業をフランチャイズとして母国へ持ち帰りたい』との相談から始まった。
現在では、ABEイニシアティブのネットワークも活用しながら2025年にはケニア、マダガスカル。2026年以降にはザンビア、ガボン、リベリア、レソト、タンザニア、ウガンダ、アンゴラと複数国での展開が計画されており、どの国においてもABEイニシアティブ卒業生が加盟店に参画することになっている。
先述した通り、商習慣の異なるアフリカでのビジネスは、現地で事業をコントロールする必要があったが、日本の文化・習慣を日本の地で学んだABEイニシアティブ卒業生=人材が現地にいることで、フランチャイズというビジネスモデルも展開できる可能性があり人材育成施策の波及効果が非常に大きい。
また、日本企業のアフリカ進出に関して、ケニアを拠点にサポートしている株式会社アクセルアフリカという企業がある。CEOの横山裕司氏は、2013年~2015年にJICA海外協力隊としてケニアで活動し、帰国後に日本の開発コンサルタントを経て、2022年5月に同社を起業したという経歴の持ち主だ。現在はJICA海外協力隊の派遣国であったケニアに移住し、ケニアを拠点にアフリカ各国でビジネスを行っている。

CEOの横山裕司氏(中央男性)
同社は、日本企業とアフリカの現地の人々とのコラボレーションということを非常に大切にしており、その中で、アフリカ各国におけるABEイニシアティブの卒業生で構成されている“Kakehashi Africa”というコミュニティと連携を行っている。
ABEイニシアティブの卒業生はプログラムが終了し、母国に帰国した後も日本との繋がりを持っていたい、特にビジネスを一緒にしていきたいとのモチベーションが高い一方で、母国に帰国すると、どうしても日本との接点が極端に少なくなってしまっている現状もある。
株式会社アクセルアフリカはABEイニシアティブ卒業生たちがやりたいこととコラボレーションできる領域を見出し、同コミュニティとパートナーシップを取り交わし、すでにTICAD9に合わせてアフリカ諸国のKakehasi AfricaとのMOUを含めて、22件の署名文章を取り交わした。

このように、ABEイニシアティブがスタートして10年が経過し、日本への理解を深めた人材がアフリカ諸国には育っており、今後のアフリカビジネスでは、日本側がどうビジネスをアフリカ人と共創していくのか、そのアイデア発想やアクションが鍵を握っていきそうだ。
アフリカビジネスに関わる日本人に着目するとJICA海外協力隊の経験を活かした起業家や民間企業の社員も多かった。
先述したコインランドリーのフランチャイズビジネスを展開している株式会社ライフブリーズにも、はたまた大手企業のヤマハ発動機株式会社、株式会社サタケなどにもJICA海外協力隊経験者が社員として活躍している。

ヤマハ発動機株式会社の企業ブース 大手企業の出展も多数
また、株式会社アクセルアフリカの横山氏をはじめ、ウガンダで従量課金型自動井戸水料金回収システム「SUNDA」を展開している株式会社Sunda Technology Global、ケニアや南アフリカで医療教育やクリニック運営をしているAA Health Dynamics株式会社の代表もJICA海外協力隊経験者である。

株式会社Sunda Technology Global
JICA海外協力隊では「BLUE」という帰国後の起業支援制度も本格始動し、協力隊経験をビジネスとしてカタチを変え、繋げていける環境は整いだしている。参考記事:「国際協力から社会起業へJICA「BLUE」誕生の理由 | KICK BRAIN」
その他、JICA関連のバックグラウンドを持つ人材だけではなく、日本やアフリカ以外の海外でのビジネス経験を活かして、スタートアップとしてアフリカ市場に参入してきている人材や、そうした企業にインターンなどで関わりを持ち出している若者も増えてきている。6年前のTICAD7が日本で開催された時とは、アフリカビジネスに関わる人材群が異なっているようだ。
こうしたアフリカと関わるキャリアの選択肢が増えれば、多様な人材が参画してくれる一方で、どのキャリアをいつ選択するのか悩む人も増えてくるだろう。その際には、ぜひ“現地・現物・現実”を自らの足と目で確認しながら進んでもらいたい。そうした経験が、これからアフリカビジネスに関わっていく際に、自らにとっての大きな柱になることは間違いない。
今回のTICAD9は、次回TICAD10開催が予定されている2028年までに、日本とアフリカマーケットの関係性が、どう発展していくのか期待が持てるイベントだった。一方で、打ち出しだけでアクションを起こさなければ、容易に衰退していってしまう関係性でもある。組織単位でも、個人単位でも、アフリカと繋がるチャンネルが増えているからこそ、イベントの一過性で終わるのではなく、何かしらの制度や政策を活用してネクストアクションが次々と起きることを期待している。


